8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

『物語のなかとそと 江國香織散文集』感想

 江國香織さんの『物語のなかとそと』を読みました。

 

物語のなかとそと 江國香織散文集

物語のなかとそと 江國香織散文集

 

 

 いいですねえ…。うっとりしちゃう。江國さんと言えば『冷静と情熱のあいだ』の人だ、という理解で止まっているけれど、少しずつ読んでいこうと思っている作家さんなのでした。雰囲気としては小川洋子さんと宮下奈都さんっぽい。ふわわんとしていて、だけどゆるぎない核を持っている。押しつけがましくないけれど、確固たる世界観があって私は多分それらの世界観に親近感や憧れを抱いている。綺麗で淡々と。素敵じゃあありませんか。秘密とは、という話が好きです。秘密は夜の中でするお手玉に似ているのかあ…わからん!だけど、そんな気もする!うっとりしてしまったので言葉を書き溜めるノートにいそいそと書き写しました。

島本理生『真綿荘の住人たち』感想

 島本理生さんの『真綿荘の住人たち』を読みました。

 

真綿荘の住人たち (文春文庫)

真綿荘の住人たち (文春文庫)

 

 

 本を読むことで私は他者という存在をぴったり理解することはできないのだと、知った。ファンタジーを読むことで、世界の理の方が先にあって、それらに殉ずるしかないのだと、思った。だから「意味がわからない」「納得できない」というのは感想としてはありだけれど、それを以て作品を拒絶する理由にはならないんじゃないか、みたいなことを漠然と考えている。ということで、わからなくたって好きになっていいし「ああ良かったかもしれない」と思っていい、と思っている。この『真綿荘の住人たち』もそんな話な気がする。

 洋服とご飯をきちんと描く作品は好きだなと思う。その人が大切にしているものがイメージしやすい。どう食べるのかでその人がわかるし、この作品は食べ物をきちんと美味しく描いてたのが印象的でした。あとは登場人物の洋服を書くのも上手かった。あとでその部分だけ抜粋してノートに書き留めておきたい。

 わからんのだけれど、それも有りか。全体的な感想としてはそんなところです。といっても読みやすいし様々な真綿荘の住人たちが登場するので、自分と似た人物たちがいるかもしれません。私は綿貫さんと椿さんの舌戦、が好きでした。

光浦靖子『お前より私のほうが繊細だぞ!』感想

光浦靖子さんの『お前より私のほうが繊細だぞ!』を読みました。

 

「お前より私のほうが繊細だぞ!」という視点で悩める読者の悩みに返していく、というスタンス。すべての悩みは「こんな繊細な私、ほんとつらい…」という立場から始まってるのではないか、みたいなことが文頭で書かれていた気がする。わかる…めちゃめちゃわかる。自分に心当たりがありすぎる…。要は「自意識過剰」ってやつなのかもしれません。が、過剰すぎる自意識ってのは扱いが本当に難しいものだと思います。鎮め方間違えると怪物に変貌しますし。

光浦さんはテレビでちらっと拝見したことがあるくらい、彼女が出ている番組もあまり見ないからよく知らないけど、ユーモア交えた返答、面白かったと思います。ご本人は真面目に答えてるのかもしれないけど。

自分の悩みもそうなのですが、いざ世の中にはバババーンとオープンすると「小さいことで悩んでるなぁ」と呆れるのですが、お悩み相談って当の本人にとっては切実なのですよね。この「切実さ」が本人と第三者で天と地ほど異なることもあるわけでそれってどうなのだろう、そういうものだけど、なんか、どうすればいいのだろう…と思いました。本人の切実さはそのままとっておきたいですよね、大したことないんだ!と過少化したくない。

ずっと前に私は「自分は性格が良いのか悪いのか」というどうしようもない悩みを抱えていることがあって、結論から言えば性格の良し悪しというのはとても曖昧なものであり人によっても観点号が異なり相対的なもののような気がするので考えるのはやめよう!でも私はどうやら人好きのする人物じゃなさそう…ってところに落ち着きました。同じように「自分は繊細なのか」とか「感受性豊かなのか」ということも同じで、「もうよくわからん!」とちゃぶ台をひっくり返したことがあります。「繊細」「感受性」を印籠のように振りかざしてる時点で私の感性は終わってる、そう思うようになりました。だけど気にする私はやめられないし、願わくば自分の背中にべったりと執着する、もう一人の自分のようなものをべりべり剥がしたいです。それしかこのモヤモヤから解放される術がなさそう。

開き直って鎮まるの待ちたいと思います。もう「繊細」って言葉、知らない自分になりたい。

恩田陸『Q&A』感想

 恩田陸さんの『Q&A』を読み終わりました。

Q&A (幻冬舎文庫)

Q&A (幻冬舎文庫)

 

 

 系統としては『ユージニア』や『中庭の出来事』に属するでしょう。面白いのはすべて対話形式で話は進められるということ。すべての会話は「相手」が存在しモノローグは一切ない。会話だけで読者は状況を把握していくユニークな作品です。

 何度も言うようにとにかく独自の論を喋りまくる恩田陸作品の登場人物が私は好きなので、今回も楽しむことができました。が、最近起こった事件と描写が重なるということもあったりして考えることもありました(もちろん現実で起こった事件と物語上の事件はまったく別物だし、異なる点も多いのですけれど)。

 人はこんなにも喋りたがりというか、もちろん喋るのが苦手な人、好きではない人はいらっしゃると思うけれど、人間って喋る相手を選ぶだけで相手がいれば本当によく喋ると思う。で日頃なかなか打ち明けられないことを発散したいという欲望。これは自己承認とか相手より優位に立ちたいとかそういうこともあるけれど、秘めていたものを開放する快感みたいなものがあるのではないか。ということでよく喋ってたねー。

 内容についてはどうでしょう。怖いなぁとは思ったけれど、じゃあどうするよ?ということになると有効な解決策が浮かばない。集団心理というのはあって抗うことはできないのかもしれないけれど、人間が同じ方向を向いているときほど恐ろしいことはないということを肝に銘じて生きていこうと思いました。あと秘密は必ずどこかでこぼれるものだなーと思いました。

 

 恩田陸さんの『Q&A』を読み終わりました。

 

 

彩瀬まる『やがて海へと届く』感想

 彩瀬まるさんの『やがて海へと届く』を読みました。

 

やがて海へと届く (講談社文庫)

やがて海へと届く (講談社文庫)

 

 

 初めての作家さん。読んでよかったです。この人の著作、読み漁ろう、と思えました。

 真奈ともう一人の視点が交互に展開されていて、最初は「?」と思ったのだけれど読み進めて何を意味するのかを知ったとき鳥肌が立ちました。印象的な情景がたくさんあって、自分の頭の中でイメージを作りながら読んだ感じ。

 震災で突然親友を失くした真奈が喪失と向き合い回復する物語。そうして言葉にしてしまえば「ああそんな作品なのね」と思われてしまうだろうけれど、日常のちょっとしたところの真奈の感じ方とか国木田さんとのやりとりとか、すみれの恋人とのやりとりとか、ああ綺麗だなぁと思う箇所がたくさんありました。消化するにはまだ時間がかかりそうだけれど、時を経て繰り返し読みたいなと思う小説でした。私は後半のちょっとした小旅行の場面と、もう一人の人物が海岸を歩くところが好きだなと思いました。

 

 彩瀬まるさんの『やがて海へと届く』を読み終わりました。

 

【2019.9.21】追記

 それほど期間を空けず再読。私の場合、一度読んで「欲しい!」「読み直す!」と思う本は買うことにしているので、単行本を購入。愛しの愛しの単行本。文庫本のイメージが強かったけれど、単行本の表紙も印象的だ。どちらも、良い。

 好きだなぁ、と思う。悲しいのだけど。特にすみれパートは本当に悲しかった。靴がキーポイントだったのだなぁ、と読み直して改めて気がつく、というか噛みしめている。

 

中村安希『インパラの朝』感想

 中村安希さんの『インパラの朝』を読みました。

 

インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸 684日

インパラの朝 ユーラシア・アフリカ大陸 684日

 

 

 わからなかった。彼女は684日間、47か国を旅し、私は極東の島国で毎日毎日デスクワークに勤しんでいる。わからない。スラム街の匂いも、ジャムの美味しさも、夜明けの美しさも、サバンナの朝も、知らない。

 「知りたいのか?」と問われると、私は「知りたい!」と答えるだろう。そしてそのあとに必ず付け加える、「でも…」なんとも弱気な回答だ。

 この本はある年の青少年読書感想文コンクールの課題図書だったと記憶している。当時は読まなかったし、私は課題図書の感想文を書いたこともなかった気がするが、ということは多くの学生がこの本を読んだということだ。私は他人の読書感想文を読むのは好きであるけれど、この本に限っては「好き」という以上に「この本を読んだ人はどんなことを考えたのだろう」という好奇心が勝る。だからこの文章を書き終わったら、他の人の感想を読んでみようと思っている。

 

 冒頭の数ページが好きだ。ビビビン!ときて、これはあとでノートに書き写しておきたいという文章。26歳、冷蔵庫を売る。

 途中の内容はあまり記憶がない。結構流し読みしてしまった気がする。ただ玉ネギのところは特に印象的だ。パキスタン[10年の約束]。そうだ、このように「あなたはどこの国の話が好き?」と言い合うのも面白い本だと思う。各国数ページで終わりとにかくテンポが速い。紀行文は思考が分断されないというか、比較的時間が続いている感覚を受けるのだけれど、『インパラの朝』に限ってはむしろ「分断」がポイントであって、旅の道中の一コマを延々と見せられているかのよう。これはなかなか新しいスタイルというか、様々な場所に行ったからということだと思う。

 この本を読んでも私は世界旅行はしないわけで、では私はどうなる?ということを読み終わってから繰り返し考えている。私はこの本を読んで、どう思った?そして、わからなかった。

 

 「世界を知っている」なんておこがましいということ。あとは想像と実感が必要ということ。それぐらいしか。

 

 だから知りたい。この本を読んで、他の人はどう思ったのだろう?

坂木司『アンと青春』感想

 坂木司さんの『アンと青春』を読みました。

 

アンと青春 (光文社文庫)

アンと青春 (光文社文庫)

 

 

 『アンと青春』は、赤毛のアンの『アンの青春』を意識されたものなのだろうか。青春…アンちゃんの青春…?なのか。その点読者それぞれで判断していただきたく。

 このシリーズは美味しそうな和菓子×個性的な登場人物×日常ミステリーが化学反応を起こし、まあ多くの人におすすめできる作品だと思っていて、今回も案の定面白かった。アンちゃんこと杏子が背伸びしない、悩んだり元気だったり、素直なところが好ましいのです。そして読み終わるとデパートの和菓子売り場に駆け込みたくなる。

 和菓子が「毒」になる、という話が面白かった。和菓子そのものはとっても美味しいけれど、同時に和菓子とは歴史が詰め込まれたものでもあって「わかる人にはわかる」という性質を利用した嫌がらせ。あてつけ。和歌にもそういうところがあって、教養ある人たちの知的遊戯みたいなところを感じる。

 実感と知識を丁寧につなげようとするアンちゃんの姿勢は見習うものがあると思いました。