8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

『下戸の夜』感想

『下戸の夜』を読みました。 タイトルの通り、下戸の本である。 下戸って上戸に対して下位に置かれている気がする~、というのは本の中でもちらほらあったけれど、改めて由来を調べてみると、語源は想像以上におぞましかった。 下戸/げこ - 語源由来辞典 (…

アガサ・クリスティー『三幕の殺人』感想

アガサ・クリスティー『三幕の殺人』を読みました。 犯人については言及しないけれど、動機に関する感想を書くので各自回れ右お願いします。 実際に起こった事件に対するコメントで「誰でもよかったという動機は、ある意味で二重の殺人であると言える。つま…

森田真生『僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回』感想

森田真生『僕たちはどう生きるか 言葉と思考のエコロジカルな転回』を読みました。 前提として、人の日記を読むのは面白い。何故なら私が書いたものではないからだ。 新型コロナの流行を経て独立数学者が考えたことがつらつらと描かれている。数学の話はほと…

ペク・セヒ『死にたいけどトッポッキは食べたい』感想

ペク・セヒ『死にたいけどトッポッキは食べたい』を読みました。 タイトルに含まれている「死にたいけど」にドキッとさせられる。どうして人間には「自死」という観念?があるのだろう。 最近どこかで読んだ文章で「死にたいってのは結局自分の嫌なことから…

鳥飼茜『漫画みたいな恋ください』感想

鳥飼茜『漫画みたいな恋ください』を読みました。 面白かった。日記なので少しずつ読みました。 細かい内容は覚えられないけれど文字を目で追っているときの感覚は体に残る。率直で衒いのない文章だなと思いました。 他人の人生は面白い。その面白さはきっと…

イーディス・パールマン『蜜のように甘く』感想

イーディス・パールマン『蜜のように甘く』を読みました。 日本での刊行は2020年ですけれど、私が読んだのは2022年で、その上で言います。 2022年読んだ本の中でトップ5に入ります。最高だった。濃密な読書体験でした、以上です。

南直哉『仏教入門』感想

南直哉『仏教入門』を読みました。 最近、仏教について知りたいなあと思っていたところだったので「入門書」を手に取ってみた。結果的にエキサイティングな内容だったのでとても面白く読めた。 入門書の定義は人によって多少変わると思うが、自分の中で入門…

中島岳志『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』感想

中島岳志『秋葉原事件 加藤智大の軌跡』を読みました。 恩田陸『灰の工場』、物語の中で展開されるちょっとした小話の中でアガサ・クリスティ―の『ゼロ時間へ』という作品が登場する。『灰の工場』もまたゼロ時間に向かって時間が収斂していく話だ。 秋葉原…

浅野いにお『漫画家入門』感想

浅野いにお『漫画家入門』を読みました。 面白かった。浅野さんの作品は『ソラニン』そしてデデデ(『デットデットデーモンズデデデデストラクション』)の途中まで読むという中途半端さであるが、NHKの「漫勉」で浅野いにお回を観てえらく印象に残っている…

ジェーン・スー『私がオバさんになったよ』感想

ジェーン・スー『私がオバさんになったよ』を読みました。 「私は決して最初の人類ではないのだから大丈夫だ」みたいな感覚がある。どれだけの人間が生まれ、どれだけの人間が死んだか。それらすべてに物語があり経験があり思索があった。であれば、私たちは…

鷲田清一、内田樹『大人のいない国』感想

鷲田清一、内田樹『大人のいない国』を読みました。 面白かった。「大人」という観点で、現代日本社会について考えてみたり、という本。この本で書かれていることは大体において「そうだよな」と首肯するところではあるが、細かい所を検証すれば「揚げ足取れ…

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』感想

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』を読みました。 実は再読。短い期間で二回読んだ。 まず装丁がめっちゃ好きです。特に表紙。所有欲を満たせる。私は普段、ブックカバーをかけることは滅多になく、外で本を読む時は「どや!」という感じで皆様に…

江國香織『東京タワー』(二回目)感想

江國香織の『東京タワー』を読みました。 再読。 dorian91.hateblo.jp 初めて読んだ時の自分の感想を読み直したら「おま、結構いいこと書いてるやん」となる。過去の私はもう他人だ。 私はこの小説を旅のお供に選んだ。理由としては、それが江國香織の作品で…

アリ・スミス『春』感想

アリ・スミス『春』を読みました。 アリ・スミスの話は読んでいてとても刺激的だ。よくわからないところがいい。わかりたいけれど、今の私はわからないのだろうという感覚。花が至る所に咲き乱れる山みたいな話を書く。私はその山をまだ登ることができない。…

最果タヒ『コンプレックス・プリズム』感想

最果タヒ『コンプレックス・プリズム』を読みました。 いわゆる「小説ではない」本の読み方は様々である(いや、本のいうのは総じて読み方は様々だ)。中でも好きな読み方は「文章をからだに通す」というような読み方で、何も考えず、ただ水を流すように文章…

内田樹『日本習合論』感想

内田樹『日本習合論』を読みました。 私が「純血」という言葉と初めて出会ったのは、おそらくハリーポッターシリーズで、魔法使いの中には、魔法を持たない人間(マグル)から生まれた魔法使いを「穢れた血」として忌む人々たちが登場する。 当時、小学生だ…

【雑記】5回目の8月4日

今まで、淡々と同じフォーマットで投稿するよう心掛けてきた。それこそ「書庫」なので、本の感想以外の余計なことは書かないように、と思って投稿を続けてきたのだ。唯一の例外はこの記事で、どうしてこの投稿をする気分になったのかいまだによくわからない…

平出隆『私のティーアガルテン行』感想

平出隆『私のティーアガルテン行』を読みました。 ティーアガルテンというのはドイツ語で「(小型の)動物園」らしい。とはいえ、動物園のことに関する本ではなく、本文中の言葉を借りるなら「わが迷宮のいくつもの入口の部分について」の本である。 エッセ…

アガサ・クリスティ―『蒼ざめた馬』感想

アガサ・クリスティ―『蒼ざめた馬』を読みました。 はい、騙されました。クリスティのミステリで犯人を当てられた試しがないのだけれど…それは読者としては優良なのでしょうが、当てたくなくて当てられないわけではないから悔しいです。 人を呪術で殺すこと…

辻村深月『傲慢と善良』感想

辻村深月の『傲慢と善良』を読みました。 かねてから読みたかったということを忘れていたけれど、体が覚えていたのか、本棚から引っこ抜いて借りた本です。借りてから「あ、そういえばこの本読みたかったんだっけ」ということを思い出しました。辻村深月は良…

坂口安吾『明治開花 安吾捕物帖』感想

坂口安吾『明治開花 安吾捕物帖』を読みました。 なぜこの本を本棚から引き抜いて読もうと思ったのか、まったくもって思考回路が不明なのですが、とにかく読みました。一体何を思ったのか。坂口安吾、読んだことのある作家でもないしなあ。 とはいえ、面白か…

アガサ・クリスティー『死の猟犬』

アガサ・クリスティの『死の猟犬』を読みました。 短編集。率直な感想を書けば「クリスティ、こんな話も書けるのか」と思いました。じわじわと少しずつ圧迫感を強めてくるのは『そして誰もいなくなった』でおなじみ、かの作品が好きな人は好きになれる話も多…

村上春樹『村上T 僕の愛したTシャツたち』感想

村上春樹『村上T 僕の愛したTシャツたち』を読みました。 スクエアな本の作りが好きです。 村上春樹の小説はあまり読んだことがないのだけれど(短編1冊だけ読んだかもしれない)エッセイは比較的読む。内省的なところと、そこに対する自己ツッコミの加減が…

森達也『虐殺のスイッチ 一人すら殺せない人が、なぜ多くの人を殺せるのか?』感想

森達也『虐殺のスイッチ 一人すら殺せない人が、なぜ多くの人を殺せるのか?』を読みました。 ずっと前に『A3』を読んだ記憶がある。あとはドキュメンタリー映画『FAKE』も観た。 本書の感想とは全く違う話だが、行きつけの美容室で髪を切ってもらっていた時…

ラース・スヴェンセン『働くことの哲学』感想

ラース・スヴェンセン『働くことの哲学』を読みました。 この本が教えてくれたこととして、心に刻もうと思ったことが1つある。それは、「仕事とは何か」という問いに対する答えは有史以降常に変化を遂げてきたし、これからも変容していくだろうということだ…

千葉雅也『現代思想入門』

千葉雅也『現代思想入門』を読みました。 前々から思っていたことがある。いわゆる「学術書」と呼ばれる本はどうしてこう難しいのだろうかと。読んでて全然わくわくしない。でも「わくわくしない」だなんて、結局私がその本に書かれていることをこれっぽっち…

坂口恭平『cook』感想(再読)

坂口恭平『cook』を読みました。 dorian91.hateblo.jp 再読です。料理を作っている合間に読みました。楽しかったです。 cookという料理本はまず装丁が可愛い。所有欲が満たされる装丁です。レシピも載っているけれど、レシピ本というより料理の実践本です。…

アガサ・クリスティー『象は忘れない』感想

アガサ・クリスティーの『象は忘れない』を読みました。 面白かったんだが!?!? (以降ネタバレあります) 『象は忘れない』が面白いだなんて、結局私はメロドラマが好きなのかしら、と思わなくもないけれど、え~、これはめちゃめちゃ愛の物語じゃーんと…

千葉雅也『オーバーヒート』感想

千葉雅也『オーバーヒート』を読みました。 面白かったです。何が面白かったのか言語化できない面白さに駆られてページをめくっていました。 物語の中で芯として通っているのが「言葉」というもの。主人公はどうも言葉が堰き止められているような感覚を抱い…

江國香織『すいかの匂い』感想

江國香織『すいかの匂い』を読みました。 自分にはそういうものがあると認めたくないけれど、実際はあるでしょ? ということを突き付けられているような小説。江國香織作品の中ではつめたく、ちょっと不気味な感じがした。読んでいる最中、ずっとドキドキし…