8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

宮部みゆき『模倣犯 五』感想

宮部みゆきさんの『模倣犯 五』を読みました。

模倣犯〈5〉 (新潮文庫)

 

 

dorian91.hateblo.jp

 三巻の感想は書いておいて四巻は書かないのかよ(それ言うなら、一、二巻もだろ)って我ながら思いますが、四巻は大変つらい巻でしたので割愛させていただきます。が、四巻で耐え忍んだからこそ、この五巻、最終巻を読み終わった後の読後感は素晴らしいものになると思います。良かった。本当に良かった。

 

宮部さんの小説は今までたくさん読んできましたが、長く丁寧に心情や社会背景を描写していくことで得られるリアリティはすごいものがあります。読み始めるときはそのページ数に慄きますが、読んでみるとするすると読めてしまう。私にとって宮部さんの文章は読みやすい文体であるのでしょう。

 

文庫本にして全五巻の大作となった物語が、終わりました。

 

模倣犯』というタイトルは、正直自分の中ではまだ掴み切れていません。今回の犯人そのものを指し示すのか、犯人が社会に及ぼした影響、彼が播いた悪の種がやがて咲き、彼を模倣する人間が現れることを示唆しているのか。彼が播いた悪の種というのは、彼の一連の行動のことです。

 

有馬さんが素敵でした。最愛の孫娘を失い悲嘆暮れながらも、自分の頭で考え悩み行動し道を開こうとする有馬さんがこの物語の希望そのものだったなと思います。それだけに、最後の最後、有馬さんの慟哭に胸がぎゅっと締め付けられる思いでした。

 

由美子さんの豹変っぷりに正直イライラしてしまったところがありましたが(←滋子や真一と同じように)彼女の絶望、悲しみは、本来の彼女の気質さえ一変してしまうものだったということだと思っています。被害者の遺族、加害者の家族という立場の違いがあって、作中の加害者家族に対する世間の非難は相当なものだったと思います。被害者⇔加害者を対比することはできないけれど、それでも私は、有馬さんと由美子が対比関係にあるのではないかと思います。特に網川に溺れていく由美子の描写は、自分の足で立つ有馬さんと比べるとつらいものがあります。

 

それぞれの登場人物が懸命に事件と向き合っていました。

その姿は素晴らしく、どんな感想を言ったとしても陳腐なものになりそうです。

 

充実した読書体験でした。

 

宮部みゆきさんの『模倣犯』を読み終わりました。