小川洋子さんの『ことり』を読みました。
静謐な物語
ただひたすらに静かな物語でした。
『ことり』は短編集ではありません。序盤、読み進めていく中でこの事実を知った私は正直こう思いました。「このテンションで、このペースで300ページもつのかな?」と。
はい。全く問題ないです。淡々と、確かに読み通すことができます。そういう意味では、とても人生らしい本だなと感じました。
他の人はどうなのかわかりませんが、私は自分の人生がフィクションのようにドラマティックで華々しいものになる、とはまったく思っていません。このまま大したことがなく、きっと人生は流れていく。多分。現時点で予想できる範囲では。
この物語では、決して華々しい出来事が描かれているわけではありません。ありふれた小さな思い出を大事に大事に拾い集めて、お菓子の缶に大事に大事に保存したような本です。
それでいいと思うのですよね。人生に色々なことを期待しすぎだ私は、と思いました。人生に期待しすぎて、目の前の出来事をおざなりにしている。読みながら自分の生き方を見つめるきっかけにもなりました。
小鳥の小父さんの物語です。小鳥の小父さんが「小鳥の小父さん」になる話も書かれています。小父さんの内面をそっと覗ける話である一方、きっと現実世界で私が小鳥の小父さんとすれ違った日には「ちょっと気味が悪い独り者のおじさんだ」と思うでしょうから、その差がすごく悲しいです。外見の印象も大事なのですが、それだけで判断しない人間になりたいものです。
秩序のある物語
規則正しい小鳥の小父さんの生き方が好きです。本当に最初の方で小鳥の小父さんが幼稚園の鳥小屋を掃除する描写がありますが、そこで私はこの本に惹かれました。
彼の仕事ぶりには単なる片手間の手伝いという域を超える、修行にも似た厳格さがあった。
「厳格さ」に憧れます。そこにあるのはしっかりと保たれた秩序。穏やかな世界。太陽が東から西に沈むのと同じように、守られたルール。厳格に決められた手順に則って行われる作業。「厳格さ」と秩序と、ちょっとした冒険、これらで私の人生を構成したいと思う今日この頃です。
この短い感想ではまるで書けていない魅力が詰まった本です。読み終わったら、冒頭のシーンをもう一度読み直したくなる物語です。小鳥を愛し、小鳥と共に生きた人間の物語です。
以上、小川洋子さんの『ことり』を読みました。