8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

旅、カフェ、食、広がる世界/近藤史恵『ときどき旅に出るカフェ』

近藤史恵さんの『ときどき旅に出るカフェ』を読みました。

ときどき旅に出るカフェ

私はあまり「旅」に行かない。単純に面倒だし体力を使うし、何より旅に出てしまうと旅先が「旅先」でしかないのが嫌なのである。私は「旅先」を「日常」にしたい、できれば。旅をしたくない。そこで住みたい。でもそれはできないので、私は旅をしない。旅をすると悔しくなってしまうから。

旅には行かないけれど、旅が「価値観の異なる文化との出会い」をもたらす、というのは想像がつく。人は頭でわかっていても、案外身のまわりの常識に囚われがちだ。それは、生きるために必要だからで、旅は私たちの身体を支え、時に束縛する常識を解除してくれる。

 

カフェ

私もカフェが好きだ。好きなカフェの条件。1. ほどほどに人が入っているがそこまで混雑していない 2. 煩いお客さんがいない 3. 肩の力を入れなくていい 4. 頑張っていない気安さもある 以上。

なかなかお気に入りのカフェを見つけるのは難しい。案外何かが物足りなかったりする。瑛子が落ち着けるカフェを見つけられて良かったなと思う。私もそういうカフェに出会いたい。案外、3や4あたりが難しいのだ。 

 

食べ物は文化なのだなと思う。その食べ物がその国で生まれた背景には、必ず何かがある。その国その土地の気候、食習慣、道具、価値観。日本食は日本人なら何も違和感を抱かない食べ物だけれど、何故日本食は生まれたのか。そもそも日本食は何なのか。

『ときどき旅に出るカフェ』では主に異国の食べ物・お菓子・飲み物が登場していたので日本の料理は登場しなかったが、逆に「日本食とは何だろう」と考えるきっかけになったかもしれない。

 

 

広がる世界

この本は短編集ということもあり、毎回のお話に重複して登場する話が多々ある。例えば瑛子の暮らし方・生き方もその一つだ。

三十七歳、独身、一人住まい。子供もいないし、恋人もいない。取り立てて美人というわけではない。趣味らしい趣味もない。読書や映画を見るのは好きだけれど、マニアと言えるほどではない。

言い方は違うけれど、瑛子が日々どのように生きているのか、どういうことでモヤモヤし気分が落ち込むのか、何度も何度も丁寧に描かれている。それは結婚だったり、出産だったり。「女性としてこう生きるべきよね?」という誰かよくわからない存在からの無言の圧力。あまり他人事ではないから、ちょっと苦しい。

そんな瑛子は、円の作る料理に毎度驚かされ勇気づけられる。自分を取り巻く価値観、自分を苛む無言の圧力は、別に絶対的なものではないと知る。それに足元とられなくてもいいんだと思える。瑛子の視点を通して、読み手もそれを体感する。

なんとなく生きづらいなーと思っている人は読んでみたらいいと思うし、特に瑛子と同じ年代の人は。

 

私は最後の最後、円のちょっとした秘密が明らかになったところがお気に入りです。とてもチャーミングで。

 

旅とカフェと食べ物と、謎解きが好きな人は読んでみたらいいと思います。他の方の本ですが『和菓子屋のアン』とか好きな人は、きっとこちらも好きになれるはず。

 

 

以上、近藤史恵さんの『ときどき旅に出るカフェ』を読み終わりました。