8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

綾辻行人『Another』(上)(下)感想

綾辻行人さんの『Another』を読みました。

Another(上) (角川文庫)

Another(下) (角川文庫)

最初に忠告しておきます。

まずこの本を読むなら、絶対ネタバレは読んじゃダメ!!!絶対ダメ!!!話が気になって最後の方のページをぺろりとめくって読んでもダメ!!!絶対、何も知らないまま読んで!!!

ということを大声で私は言いたいです。かくいう私は結末が気になりすぎて後ろの方のページをぺろりした人ですけれど、後悔しました。最後にぎりぎりまで読んできちんと真相を知ってください。その楽しみは初読でしかありえないのだから。大事にその楽しみを享受してください。

よろしくお願いします。

 

またこの後の感想にはネタバレ要素もあるかと思います。未読の方はご遠慮ください。

 

結末に触れないままふんわりと感想を言っておくと、私は面白かったです。

物語として都合の良い世界はそこにありますが、小説ならではの楽しみがあります。グロテスクな表現が苦手な人は大変かもしれません。死に満ちている物語ですので。

 

自分がいざこの物語の世界に投げ込まれたとき、どう思うか。それを考えるのも面白かったです。自分事として考えるとものすごく恐ろしい世界です。がその恐怖についてはあまり描かれていないなと感じたので、同じ設定でも作家の書き方次第では本当に色々なパターンがありそう。

 

それでは、以後本題である中身に踏み込んだ感想になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

理不尽な死

この物語で、いわば自然発生してしまう奇妙な現象。その特質から認識している人も少なく名前がない現象。私がこの現象に巻き込まれたとして、何を思うか。多分めちゃめちゃ怒ると思う。死者だかなんだか知らないが、恨みが無いのなら生きている人間を巻き込むなよ馬鹿、と。実際この現象は誰かの意図すらなく、強いて言えば夜見北中学校3年3組が死に近づいてしまったがための現象らしい。死者が生者に悪意を持っているわけではないのだ。だが、どうにもならない自然災害に怒りを感じてしまうのと同じように、私はこの現象をきっと憎むだろう。酷すぎるから。

が、もはや混乱の極み状態なのか、登場人物たちがあまり取り乱していないのが少々気にかかったと言えば気になった。もっと怒っていいはずなのに。もう少し考えてみるとか、知識をかき集めてみるとか、抗ってみてもいいと思うのに。彼らはいわば理不尽な死に嬲り殺されたと言っていいのではないか。

 

恒一が生者=鳴を信じるまでの話

今回とても読みごたえがあったと感じたのは、この点に尽きます。

Anotherという物語は、現実的な少年である榊原恒一が、ほぼ直感的に生者である見崎鳴を信じるまでの話であるのだ、と。

終盤も終盤で、恒一はある大きな選択を迫られます。

この不可解な現象に巻き込まれた者は記憶さえ都合の良いように改変され、3年3組に紛れ込んだ死者につながる有力な情報はほぼ無いという状態。死者を死に還せば現象は止まるらしいが、さて、肝心の死者が誰なのかわからないのです。

そんななか鳴の義眼による「死の色が見える」という能力によって、死者を特定することができた。改変された記憶を分析しても、その人物が生きていることは少し妙な、いや違うな、その人物はもしかしたら既に亡き者であるのではないかと思わせる出来事もある。だけど、決め手に欠ける。死者自身は自分が生者だと思っているので、八方塞。

限りなく黒に近いグレーの中で、現実的な恒一君は、目の前の人物を殺める選択を迫られる。その人物が死者であれば問題はないが、もし生きている人物であれば彼は途端に殺人犯になる。そんなハイリスクを決め手に欠ける状態で取ることができるのか。

 

転校してきたその時から、恒一は見崎鳴という少女に魅かれていたとは思います。その心情描写がわかりやすくないというか、魅かれているのはわかるけれど、見崎鳴という人物に対する信頼が強くなっていく過程は少しわかりにくかったのかも。鳴と過ごす時間が彼をそうさせたんだなー、ぐらいしか想像ができませんが、とにかく恒一が行動してくれたおかげで、理不尽な現象を止めることができました。良かった良かった。

 

めでたしめでたしで、終わらせないで

現象に関わった人は、やがてその記憶を無くしていきます。現象そのものを忘れるというよりは肝心の死者が誰だったかとか、多分その現象を終わらせる唯一の方法とか、そもそも現象が起こったことすら想起しにくくなるのかもしれません。

今回は3年3組に在籍していたある人物のテープから、現象を止める方法を知った恒一たちですが、その知識はぜひ後輩に受け継いでほしいなと思います。人が何人も死んでいるのでめでたしめでたしなんてありえないのですが、それでもなんだかハッピーな雰囲気で終わろうとしていたもので・・・。私、そういうところ気になります。凄惨な事件。忘れてもいい。いや、忘れたほうがいい。わかります。だけど、忘れないで受け継がないと、また同じ厄災が起こってしまうのでしょう?

考えるとまったくハッピーではない、むしろ何も解決してない、元凶はそのまま存在しているという後味の悪さが、良いといえば良いのかもしれませんね。

 

 

ということで、綾辻行人さんの『Another』を読み終わりました。