8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

ラッシュな人生の交差点/伊坂幸太郎『ラッシュライフ』感想

 伊坂幸太郎さんの『ラッシュライフ』を読みました。

ラッシュライフ (新潮文庫)

 

 ハードカバーで読みました。文量たっぷり。上下段構成です。途中まで読むのに苦労しました。登場人物たちが黒澤さんを除き、苦しんだりイライラしたり落ち込んだりしていたので。しかし終盤に差し掛かり、今まで点だった各登場人物たちが繋がってそれぞれの結末に到達していく過程は読んでいて楽しかったです。伏線が解消されていく快感が得られることは、伊坂作品を読む際の特権、楽しみになりつつあります。

 

 以降、ネタバレになるかもしれないので注意願います。

 

それぞれのラッシュ

 この物語は異なる登場人物たちが登場し、視点がコロコロ変わります。それぞれがどのラッシュに当てはまるのかを考えてみました。ラッシュは物語の最初(というか本のカバーが折り込んだ、作者近影の上)に提示されています。

lash

 鞭打ち、鞭打つこと、という意味があるようです。

 私は河原崎かなと思います。自分に鞭打つこと。というよりは、自殺した父親にずっと鞭打たれているから。鞭打たれ続けた結果どうなるかは読んでのお楽しみです。

 

rash

 気の早い、向こう見ずな、無謀な、という意味。

 これは精神科医である京子かなと思います。確かに彼女は無謀なことを企んでいます。そしてかなりせっかちで気が短い。物語において彼女がどういう意味を持っていたのか、他の登場人物に比べると難しくてこれを書きながら今も考えています。自分賢い、と思っていても、神様視点から見るとそんなことないよ、もう少し冷静に考えなよ、ということか。彼女は自分では自分のことを冷静な人間だと思っていて、多分そうなのだろうけれど、思考の枠がちょっと病的で論理が破綻しているようなところもあって、それが非常事態に置かれたときにどんどん破綻が加速していく、ってのがホラーでした。

 

lush

 草木が青々と茂っている様子、多分そこから転じて豪奢なとか豪勢、豪華という意味に。

 これは画廊のオーナーである戸田かなと思います。他の登場人物に比べて電車で移動しているだけの人(なおかつ戸田視点、正確には戸田についている志奈子視点が少ない)なので一見物語の本筋には関わらなさそうで最後にどどんと登場する人。試す戸田、試される豊田の対比が良いなと思いました。頭の良さで自分の富を増やして増やして増やしまくっている性格が悪い戸田と、『ラッシュライフ』という物語では色々ありましたね、銃を手に入れたり若者と喧嘩したり、ととにかくよく動いていた豊田さん。戸田はこれからも性悪く人生を生きていくのだろうけれど、いつかは誰かに殺されるんじゃないかなと思います。

 

rush

  最後にrush。急ぐ、突撃する、といった意味。ラッシュアワーのラッシュはこのrushだそうです。

 これはラッシュアワーの群れにもう一度加わることを望んでいる豊田さんでしょう。最後に豊田さんは思わぬ幸運を得ますがそれをどうするのか私は気になっています。宝くじ、換金するのかな…換金したら莫大な金を得て、ラッシュアワーの群れに加わらなくてもいいかもしれないけれど、それでもラッシュアワーの群れに戻ることを望むのかな。しかし、今後の豊田さんがどうであれこの物語で得難いものを得たのも事実。作者から差し向けられた最後の審判員(という役割だったのかは伊坂さんしか知らないですが)である戸田の問いにもちゃんと答えて撃退していましたものね…。他の人が割と救われていないので、戸田さんがいてくれてよかったです。

 

 他にも伊坂作品に度々登場していらっしゃる黒澤さんが相変わらずの黒澤さんだったのも嬉しかったです。会話でさらっと登場した案山子の話(オーデュボンの祈り)は挫折してしまったので、もう一度挑戦しようと思います。

 

 伊坂幸太郎さんの『ラッシュライフ』を読み終わりました。