8月2日の書庫

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恩田陸『不安な童話』感想

 恩田陸さんの『不安な童話』を読み終わりました。

不安な童話 (新潮文庫)

 

 「あなたは生まれ変わりを信じる?」

 私は若くして亡くなった画家の生まれ変わりなのか。見たことがないのに、彼女の絵を知っている。彼女がどのように殺されたのかも知っている。じゃあ「私」を殺したのは、誰?

 謎が明らかにされるのも楽しみな話だと思うので、今回はネタバレには言及しないで感想を。

 

 まず、恒例の「恩田陸作品の名前が好きだ」シリーズ。

 今回は、主人公の万由子に謎を運んできた「高槻秒」。名前は「秒」でそのまま「びょう」と読むのですね。め、珍しい…。次は画廊のオーナーだったか「伊藤澪子」。「澪」って綺麗な文字だなぁ…と思っていたのでこの名前私は気に入りました。「澪」(みお)は「(海岸の近くで)船が安全に通れる水路」のことらしい。「みをつくし」の「澪標」は「みおの印に立てる杭(くい)。水路標」のことか。これに「身を尽くす」の意味も掛かっているのね(脱線)。

 次に、今回も泰山先生と俊太郎という知性豊かだけれど飄々とした変わり者、という人物が登場しています。こういう人物、私は憧れてしまいます。

 気になったのは、高槻倫子が一体どんな人物だったのか、まだまだ迫り切れていない感じがするということです。今回彼女視点は冒頭のシーンだけ。あとは生前の彼女を知る人物たちが彼女のことを語り、それによって高槻倫子像が徐々に形成されていく流れです。確かに、人々が語る高槻倫子は高槻倫子だったのでしょう?でもそれは彼女の一部にしか過ぎないし、もっと言うと表面的なことです。彼女は何故絵を描いたのか。彼女にとって愛する人はどんな存在だったのか。死の直前何を思っていたのか。何か不満なことがあったのであれば、何故不満だったのか。わかりません。その点はもっと知りたかったのことだなと思いました。

 

 なにはともあれ、読むのは楽しかったです。

 

 恩田陸さんの『不安な童話』を読み終わりました。