恩田陸『象と耳鳴り』感想
恩田陸さんの『象と耳鳴り』を読みました(再読)。
好きである。書体も好きだし中身も好きだ。一回目この本を読んだ時はとある電車に乗っていた時で、その時のことはくっきり思い出せる。「象を見ると耳鳴りがするんです」とおばあさんが告白した文章を読んだことをおぼえている。買え。この本を買え。あの時の自分のメッセージは手帳の片隅に残り、数年後ようやく私はこの本を買いました。
特別感動するというわけではない。推理小説でもあるし。トリックにドッキリする、というわけでもない(驚きはするのだけれど、それがこの本を手元に置きたい理由ではない)。何故この本が私は好きなのだろう。わからない。
考えてみた。この本に共通しているのは、なんというか《暴く》ということではないか。そりゃあミステリーというのは秘された謎を解くのだけれど、なんというか、一見普通の何もない世界の壁紙を関根多佳雄がぺりりと剥がしてしまうような、そういう感じ。関根父は好奇心旺盛、相反するものを保ったまま平気で生きていけてしまうタフさと広さを持った人で、悪意もなく嫌悪もなくぺりりと剥がして姿を見せた世界の異なる一面を、どこか面白がってしまうようなところがある。私はそれを好ましく感じている。なんというか最近は特に「恩田陸作品を好きになる自分」を考えてしまう。多分ここには色々なものがある。深くは考えないが。