8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

恩田陸『不連続の世界』感想

 恩田陸さんの『不連続の世界』を読みました。

 

不連続の世界 (幻冬舎文庫)

不連続の世界 (幻冬舎文庫)

  • 作者:恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2011/10/12
  • メディア: 文庫
 

 

 塚崎多聞さんが主人公の中編が集まった話。『月の裏側』は未読でして、この本を読み終わるとすぐに読み始めました。

 どの話もいわゆる「日常ミステリー」の類なのだけれど、どれもちょっと不気味。あとがきでは恩田さん曰く「私なりのトラベルミステリー」ということで、恩田さんは旅ものを書くのも上手いなぁ、いや、恩田さんの旅ものが私は好きってことなんですけどね、良いなぁと思います。こう、旅がしたくなる、ってのが「良い」という言葉に含まれています。夜行列車に乗りたい。

 塚崎多聞という登場人物も非常に魅力的でして、この本のポイントでもあると思います。閉じられているようで開かれている人物。聞き上手で連想に脈絡が無く、口を開けば相手を驚かせてしまうこともしばしば。当人の人生観に関わる話をしていると思えば、次の一言は「ラーメン食べに行かない?」だから、これは好きです。私もこんな風になりたいと思うほどに。でももっと良いのは、精神が人より安定しているように見える(実際に安定している人だと思う)多聞さんもぐらっと不安定な時があって、それも読むことができたこと。読者って結局は語り手の視点から逃げられないんだなーということも痛感しました。多聞さんと一緒に読者である私の世界も一瞬ぐらっとしたあの感覚。良かったです。

 「不連続な世界」ではなく、「不連続の世界」なんですね。そこも気になる。世界が不連続なのではなく、不連続な世界を描いているってことなのかな。ふむ。