ハリー・クラーク絵『アンデルセン童話集 上』(荒俣弘訳)を読みました。
私は『雪の女王』が読みたく、手を取りました。
ほくち箱
しょっぱなから結構ブラック。魔法使いのおばあさんから主人公の兵隊がほくち箱を奪うのだけれど、魔女の首をバスッと切断しちゃうのはすごい。魔法のほくち箱があれば行く手を阻む障害は何のその、その後幸せに暮らしましたとさ、という話。童話には必ずしも教訓が込められているとも思っていないし、道徳的な部分を求めるのもちょっと違うか、と思いつつ、さてこの話を仮に子どもに読み聞かせたら何を話せばいいんだ?と困惑しそう。そこのジレンマに私たちの生きる世の常識が潜んでいる気がする。(魔法で幸せになったっていいじゃない)
大クラウスと小クラウス
これもまたブラック。結構厳しい話です。話術に長けている、瞬時に機転を利かせられるというのは、それだけで得難い武器です。自分を救います。
おやゆび姫
おやゆび姫は、ツバメの話だったんだなあ…というのが話を読んだ最初の感想。アンデルセンの童話には鳥が結構出てくる。日本の童話では鳥というのは意識されているだろうか。鶴のおんがえしとか、舌きり雀とか?おやゆび姫を連れてっちゃう蛙も駄目だが、ルッキズムについて結構しんどい気持ちになる。
旅の道連れ
魔女である御姫様の趣味がすごくて彼女が愛でている庭の描写が最悪なのでぜひ読む際は注目してほしい。この庭だけでも頑張って実写化してほしい。この話は子どもにできる話(だから「子どもに読み聞かせられる話」と「そうでない話」の差は何だい?)
皇帝の新しい服
『裸の王様』として知られている話。面白い。人間って昔から性質が変わらないんだな~ということがわかる良い話。自分も皇帝の周りにいる臣下と同じなんだろうな。臣下であるならばどうすればいいのだろうな。
幸福の長靴
これだけ少し性質が異なる気がする。ちょっと読みにくい。
丈夫なすずの兵隊
ロマンティックな話。捌いた魚からすずの兵隊が出てきたらびっくりするだろうな。すずは「鈴」ではなく「錫」である。
父さんのすることに間違いなし
これもなかなか興味深いお話。
ブラックである。コウノトリは昔は身近な鳥だったのだろうか。現在の生息域は東アジアであって西洋では見られないのかなと思うのだが。そういう意味で余計に切ない。
おなじみの童話。生まれてきた環境でやいやい言われちゃうとそれが自分にとっての常識になるもんだよなー。この子は白鳥になって、幸せになったのかな。案外復讐心とかが強くて白鳥になった後もどろどろの物語になりそう。
ひつじ飼いの娘と煙突そうじ人
ひつじ飼いの娘の気持ちにわかるが、それに翻弄される煙突そうじ人よ…でも引き返して良かったのだ。
モミの木
切ない。クリスマスツリーを見てられない。
豚飼い王子
どう読むかで色々感想が変わる気配がする。皮肉とはいえ100回キスをねだってもな…。そんなにキスしたいか?(要点ずらしの感想)
雪の女王 七つの話からできている物語
スタジオジブリの『千と千尋の神隠し』は、『雪の女王』に通じるものがあるなあと思いました。川を流れる靴、誰かが繋いで繋いでガーダを運んでいく感じ、氷でかちこちに心が凍ってしまったカイはそのままハクのようだし、なんだかんだ面倒見てくれた山賊の娘は先輩のリンみたい。山賊の娘はリンみたいだけど、いや違う、彼女は湯婆の息子・坊だ。
個人的にすごく面白いと感じたのは、ガーダは様々な女のところを転々とするところ。魔女に王女に山賊の娘にフィン人の女。『雪の女王』は女性の気配が濃い物語だ。
なかなかに楽しく読めた。ハリー・クラークの絵もとても素敵。