8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

宮下奈都『誰かが足りない』感想

宮下奈都さんの『誰かが足りない』を読みました。

誰かが足りない (双葉文庫)

予約1 

なんだか生きづらそうな、喪失感と無力感を抱えている男性の物語。最初は色々と混乱しているような気がした。なぜ自分がそんな悪い状態に陥っているのか。しかし徐々に彼は考え始める。動き出す。そばにいた人が自分の元から去っていった。そのことを考え始める。

 

予約2

おばあさんの視点で物語が始まる。頭痛が印象的。認知症というのはどうしてもそれを見守る周囲の人の視点、苦労に注目してしまうところだけれど、認知症を患う本人は果たしてどんなことを思っているのだろう、と物語の本筋とは別のところで考えてしまった。人は老いる。脳みそも老いていく?とすると、以前は出来ていたことが出来ないというのもわかる。私が、その時まで生きていたとして、果たして内側から見る世界はどう見えるのだろう?ちょっと怖いけれど、これまで多くの人が通ってきた道だから過剰に恐れる必要もないか。

 

予約3

約束は人を強くする。最後にヨッちゃんと約束をした久美だけれど、ヨッちゃんが10月31日に帰ってくるように、久美にとっても10月31日が大切な日になるのだと思う。何もない日常は穏やかで、慣れが生じるあまり惰性でなんとなく生きてしまう。ひどいことも「まあいいか」と我慢しながら生きるようになる。だけど、10月31日に約束したことで耐えるばかりの毎日だった久美の日常もきっと動き出すと思う。

 

予約4

カメラ青年の話。私はこの話が一番好きでした。 

「おいしい」

 あ、と思う。おいしいも今だ。いつか今が過ぎて、この後に僕たち三人がどんなふうになっても、おいしいは今だ。やがて記憶に紛れたとしても、思い出すときはいつも今なのだ。

 そうだよな、と思う。過去に生きていた青年が、今に気づくお話でした。今でしか感じられない。思い出すときも、思い出すのは今だし。

 

予約5

ふるふるオムレツはおいしい。

こんな出会いがあるのなら、もう少し生きてみたいと思ってしまうような、すごい出会い。が、私の生きる世界は多分小説の中の世界じゃない(多分)。

 

予約6

バタフライエフェクトを思い出す。何気ない行動が、めぐりめぐって大きな変化となる。この話はバタフライエフェクトとはまた違うだろうけれど、ちょっとした行動が他の人にとっては大きな救いになったりするのはとてもわかる。だからこそ、なんというか、誠意をもって日々行動したいよなと思った。自分の行動が他の人にとってどういうものになるのか、それは正直向こう側の問題でもあるので制御しきれないけれど、せめて誠意をもって行動していたらちょっとはマシかな、って。

 

 

それぞれの物語をつなげる料理店「ハライ」。きっと料理を誠心誠意こめて作っているお店なのだと思うけれど、それだけで短編6つもの人生を少し変えているのがすごい。予約6で考えたことは、とてもおいしい料理を出す「ハライ」というお店の存在にもつながっているのだなーと、この文章を書きながら気がついた。

 

宮下奈都さんの『誰かが足りない』を読み終えました。