8月2日の書庫

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近藤史恵『胡蝶殺し』感想

近藤史恵さんの『胡蝶殺し』を読みました。

胡蝶殺し (小学館文庫)

 美しき秘められた歌舞伎の世界。

歌舞伎はまったく演目なども知らない世界なので、歌舞伎を知っていたらもっと面白く、きっと登場人物のお芝居もイメージしながら読むことができたと思います。ああ、惜しまれる…これから歌舞伎にハマることあるかなぁ...そうしたら絶対もう1回読もう。

 

近藤さんの作品は「サクリファイス」シリーズや「ビストロ・パ・マル」シリーズを読んでいますが、主人公がかなり冷静に世界を見つめているような気がして好感をもてます。「冷めている」というか。自分の苦労とかにあまり敏感にならないというか。はい自己犠牲精神ですか、とは言い切れない、独特の軽やかさがあって私は個人的にそういう人いいな、自分もそういう風になれたらいいなと思っているので、読んでいてその点が好きです。

今回も主人公の萩太郎さんは、歌舞伎の才覚はまだ見えず練習もあんまり真剣に取り組んで無さそう、踊りをおぼえるスピードも遅い、そんな息子と、歌舞伎に愛されたような、とんでもない才能を幼いながらも開花させつつある他人の子と。父と歌舞伎役者の狭間で、2人の幼子に向き合うのは大変だろう、さらにはご自分も役者として稽古をしなければならないし。それなのに、「自分めっちゃ大変」「疲れた」みたいな描写があまりなかった。ひたすら子どもと歌舞伎のことを案じている姿がすごいなぁ、と思いました。

幼かった2人が青年になるところまで描かれています。

歌舞伎にさして関心がなさそうだった俊介が大学生になって何に夢中になっているのか、読んだ時、人が変わるきっかけ、人が動く動機、はコントロールできないものだなとつくづく思いました。父親が意図したとおりに俊介を動かすことなどできなかった。俊介が自分で考え感じ、自分で掴みとるしか彼の人生はありえないのです。という意味で、他人に影響を与えることはいくらでもできるけれど、それが本人にどう作用するかは制御できないということをよく感じました。他人がいくら言っても、本人が聞く気がないのであれば届かないですものね。

 

途中まで不安になりながら読んでいましたが、結末は未来が楽しみな終わり方で良かったです。

 

近藤史恵さんの『胡蝶殺し』を読みました。