8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

恩田陸『消滅』感想

恩田陸さんの『消滅』を読みました。

消滅 - VANISHING POINT

再読。読んだのは2016年ぐらいに1度。

今回も面白く読めました。展開を既に知って読む面白さと、どうなるかわかっていながら読む面白さって全く別物ですよね。後者が面白くなくなっちゃうお話も中にはありますが、基本的に恩田さんの作品は何度読んでも私は楽しいです。

 

『消滅』は真相があっけないお話なのか

意味が分からないって思ったのです。一回目読んだ時は。恩田さんの作品によくあるのですが、登場人物たちが想像力豊かでまあよく喋ること喋ること。とにかく脳みそが活発に動いていて色々考えていて、そこが私は好き。『消滅』でもたくさん登場人物たちが考え喋り、なんと500ページ。するすると読むことができるのです。恐ろしい。

が、散々引っ張ってきておいて、テロリストは何だったのか、「消滅」という言葉の意味はなんだったのか、真相はあっけないものでした。少なくとも私は「あっけない」と感じました。一体これまでの500ページは何だったのか。これって今気がついたけれど、多分空港で足止めされ拘束されていた登場人物たちと同じ心境ですよね。結局こんなものなのかよ、と。

しかし、『消滅』という物語そのものと『消滅』のオチを絡めて考えたとき、「あっけない」という考えは少し変わりました。テロリストがこの中にいる、と突然宣言され、テロリストを見つけるまでは空港から出られませんと言われ、疑心暗鬼になりつつ、世代も性別も異なる男女(と犬)は同じ空間で過ごす。スコットが消滅させた「壁」は、言語の壁でした。彼は人々の活発な交流を是としている。人々がよりコミュニケーションをして意思疎通を図り、価値観を擦り合わせ、時には対立し、結局他者と自分は違う人間なのだと知る。それを同じ言語内でとどめたくなかった。だから壁を消滅させた。

これって、登場人物たちが閉ざされた空間でやってきたことと同じじゃないかなと思うのです。まあ、みんな日本人なので言語は同じですけれど、職業も年齢も事情も異なる人たちが、テロリスト発見という目標のために短い間でも言葉を交わそうと努力した。『消滅』をコミュニケーションの物語を考えれば、まあ、読みやすい本かなと思います。私は。

 

他にも、人工知能を搭載したロボット「キャサリン」という存在が様々な問題を提起しています。人間とロボットの違いは?ロボットで労働問題を変えられる?いずれロボットに世界は侵食される?ロボットに感情は宿るのか?人間と一見変わらないロボットが街中に紛れていたらその時自分はどう思う?などなど。が、私は正直あまり興味がありません。人工知能は興味がありますが、人間と一見判別がつかないロボット、がイメージできないのです。あと50年後になると事情は変わるのでしょうか...全く想像がつかないです。なのでキャサリンの話は無しにします。

 

 

とにかく楽しく読むことができました。ストレスなく、文章を読み流せる作家さんの存在は貴重ですね。本を読むことが楽しいなと久々に感じました。

以上、恩田陸さんの『消滅』を読み終わりました。