8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

他人の洞になること/本多孝好『ALONE TOGETHER』感想

本多孝好さんの『ALONE TOGETHER』を読みました。

ALONE TOGETHER (双葉文庫)

この本の主人公は、特別な能力を持っている。特別であるあまり孤独な青年だ。

さっぱり言うと私はこの本の主人公が何をしたかったのか、わからなかった。段々とその違和感は読み進めていくにつれ強くなり、最後のほうでは本当に振り落とされそうな気分になったのは少しだけ残念かもしれない。それでも「つまらなかった」で終わらせるのは何事も勿体なく、こうして私は感想を書いている。

今日はそういうことなので、この本の主人公・柳瀬が持つ能力について考えていきたい。物語の感想は言えないからだ。

 

柳瀬は不思議な能力を持っている。引用しよう。

「誰もが何かを胸の内に抱えている。みんながみんな、自分の思いのすべてを口にし始めれば社会は回らなくなる。外にぶちまけることのできない思いは、内側に溜まって澱になる。人はいつだってその澱を吐き捨てる穴を探している」

柳瀬の能力はこういうものだった。柳瀬は他人の洞(うろ)だった。そしてこの能力はコントロールをするのが難しかった。柳瀬の意図に関係なく発動してしまうこともあるようだった。「人柱」と形容した。共同体を維持するための生贄である。

私は、一時期隣の人の考えを全部知ることができたらどんなにいいだろう、と思ったことがあった。他人がわからなかったからだ。他人がわからない上に自分のこともわからなかったからだ。自分がまともなのか。まともじゃないと思っていた。ではまともそうに見える他人の頭を除いて、何もかもを参考にして自分を再構築すれば、私はまともになれるだろうと思った。そんなことは無理だった。思春期のもやもやであった。

今は、他人の考えを全部知ることなぞ絶対御免である。本音は秘められてなければいけない。「本音でぶつかれ」?ご冗談を。社会を維持するうえで「建前」というものは必要なのである。

 

本音はドキッとする。隠されたものだから。真実の声だから。理性というものでオブラートに包まれた人々の意見は、理性が外れると途端に暴力的になる。エネルギーが増す。だから取り扱いには慎重になったほうがいいのだ。

柳瀬は秘められたものを暴ける能力を持っている、ということだ。それは、大変だろうなぁ…。

きっと柳瀬以外の人物だったら、この能力を使って犯罪者の心理を暴いたり人助けをする英雄が生まれるのだろう。でも柳瀬は普通の人間で善良で普通の人間らしく醜さ(というか悪さというか弱さ)もあった。だから、能力を持て余し苦しい。

 

他人の洞になることは、私は御免だ。そういう役割があてがわれたら逃げ出したくなるし(実際私は人の愚痴とかを聞くのもあまり得意ではない。あぁぁぁぁぁ!!!もう!!!ってキレている)その点柳瀬は優しいし、人に甘いし、つらいのかもしれないなと思った。

 

柳瀬が幸せになるといい。呪いではなくそれを上回る祝福を。人を呪うのではなく人を愛し続けられるように。

そう思って、私はこの本の最後のページを閉じましたとさ。

 

本多孝好さんの『ALONE TOGETHER』を読み終わりました。