8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

角田光代・松尾たいこ『なくしたものたちの国』感想

 角田光代さん(そして挿絵が松尾たいこさん)の『なくしたものたちの国』を読みました。

なくしたものたちの国 (集英社文庫)

 

 すごく良かった。本当に良かった。感動した。

 基本的には何事にも楽しみを、喜びを、発見を見出したい私ですのでなんでも楽しいのですけれど、この小説は本当に良かった。もしかしたら今後読み返すときは異なった評価をするかもしれないけれどそれでもいい。今の私にとってとても良かったから。それをここに残しておきたい。

 

 うそだと言われると思うけれど、わたしは八歳まで、いろんなものと話ができた。

 

 これは冒頭の文ですが、もうここでがっつーんときた。痺れた。

 八歳まで、いろんなものと話ができた。この後に続いてどのように会話できたのか文章が続いていくけれど、本当にナリちゃん(主人公)はいろんなものと話ができていた。逆に隣の席の新太くんの言葉は三分の一わからなかったということで、そのわからなさが本当にわかってなくて抽象的でもなんでもなかった。

 確からしいことが好きだ。赤は赤。鳥は鳥。今日のご飯はこんなにも美味しくて、一人膝を抱えて物思いにふける夜はつらい。世界はぱっきりとしていて私はそれをできるだけ書き留めておきたい、忘れても思い出せるように。そんな気持ちで私は生きているのだけれど、この小説ではもう少しぼんやりと淡いところまで描かれていて私はそこが好きなのだと思う。確かじゃない。どっちかもわからない。うまく言葉にできない。それが本当かもわからない。そんな柔らかいところがきちんと文章になっている小説。こういう世界の切り取り方、描き方をしてみたいと思ったし、必要なことだと思う。白と黒だけで世界が成り立っているわけではないから。

 もう少し狂ってもいいというか、なんというのでしょうか。人間きちんと生きられることばかりじゃなくて、もっと混乱するいきものなのだけれど、私たちは普段その混乱をできるだけ少なくして生きようとしているのではないか。混乱を混乱のまま維持し、大丈夫になったりまた混乱したりそういう移り変わりを認めながら生きていいのではないか、となんとなく思いました。現実的な話ばかりだなー。

 とにかく良かった。良かったんだ。それが言いたい。そしてもっと世界のグラデーションを楽しもう、と思いました。(小説のテーマとは関係がない感想になってしまった気がするがそれで良いのだ)

 

 角田光代さん・松尾たいこさんの『なくしたものたちの国』を読み終えました。