8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

工夫する/小野不由美『営繕かるかや怪異譚』

 小野不由美さんの『営繕かるかや怪異譚』を読みました。

営繕かるかや怪異譚 (角川文庫)

 

 面白かった。良い本に出会った。「営繕」とは「建築物を新築または修理すること」らしいですが初めて知りました。「新築」とありますが、この本では「修理」に重きを置いていて「既存のものと上手く付き合う、手っ取り早く壊さないで」という思想は、個人的には好感をおぼえます(物は大事にしていきたい)。

 営繕屋のお兄さんが最後の最後にはヒーローさながら登場するとわかっていたので耐えられるものの、救いがなければ怖くて読み通せない。そういうじわじわくる怖さが流石の筆力、小野不由美先生。怖かったけどなんとか読みました。

 印象的だったのは、「家」という存在の重さと人の想いの粘着質なところ。短編どれもの共通しているのが、それが「家」の問題であること。それはただ物質的な建物としての家だけでなく、いわゆる家族関係に及びます。「家」って重たい。重たいから味方になれば心強いけれど、敵に回ると手ごわい。さらにはそこに亡くなった人の想いがべっとりつくので、まー、読んでいてつらかったです。嫌な気持ちにはならないですけれど、つらい。

 営繕屋さんはそんな重たさに対して、ただひたすらに忌むのではなく、うまく付き合っていきましょ的な優しさがあってそれが私はすごく好きだなと思いました。霊的なものに対しても、祓うのではなく霊と人間が共存できるように、というアプローチなのです。それっていわゆる「幽霊もの」としては珍しいような気もしていて、すごく優しいなと思いました。そのために工夫する。頭を働かせて、暴力的に破壊するのではなく和らげる。この思想は生きていく上でも大切な考えだと思いました。

 

 怖いですけれど、哀しい話もありますが、最後は営繕屋さんがどうにかしてくれます。人に本を勧めることはありませんが、もし勧めるとしたらそう言って読ませてみたいです。

 小野不由美さんの『営繕かるかや怪異譚』を読み終わりました。