8月2日の書庫

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語られないこと/恩田陸『木曜組曲』感想

 恩田陸さんの『木曜組曲』を読み終わりました。

木曜組曲: 〈新装版〉 (徳間文庫)

 

 んー。好き。やっぱり恩田陸作品が好きなんだよなぁとこういう時思います。読み慣れてしまっているというか。文体にも話の持っていき方にも慣れているし、何より「あ、好き…」とか「わかる~」と思えるフレーズに出会えるのが好きなのかもしれない。

 

慣れた親戚と美味しい食べ物と酒と不穏

 この話は、4年前に亡くなった有名な女流作家重松時子の親戚の女性4人+時子の編集者が命日に集まって故人を偲ぶ恒例行事の話。時子は自殺として処理されたけれど、その死には不審な点もあって、今年に限っては例年とは異なる事態も起きて、なんだかいやーな雰囲気。でも最後はきちんと収まるところに収まる、そんな話。

 すごく好きなのは、彼女たちはお互い慣れ親しんでいる間柄かつ職業が似ている(全員何かしら「物書き業」に携わっている)ため共有できる悩みとか苦労もあって、会話がざっくばらん。年齢も同世代というわけではなさそうだけれど、テンポよく喋っていきます。そんな登場人物が他愛もないことを喋るという恩田陸作品の好きなところがありつつ、さらに美味しい料理と酒が出てくるのだもの、好きになるしかない。

 時子の編集者だったえい子はプロ級の料理の腕前ということで4人に対しても手厚いおもてなし。ポトフ、私も食べたいです。また大酒飲みもいるということで、ドンペリにキャーキャーはしゃぐ姿、楽しいなぁと思いました。お酒を美しく飲めるってのは憧れるものです。

 そんな和やかなムードもありつつ、思わぬところから舞い込んできた話で一気に雰囲気が冷たくなるのも読みどころの一つです。天気が急変したような、ゲリラ豪雨がやってくる手前、空気が冷たくなって乾いた風が吹くあの感じに似ています。

 

物書きという人間の性分

 この小説、登場人物たちが何かしら「書く」ということに関わる仕事をしていて、そのことについての持論をちょっとだけ展開するのも面白かったです。といっても、重松時子という書き手としてあまりに偉大な人間を近くに持つが故の、苦悩やコンプレックスみたいなものですけれど。そしてこの木曜の集まりを通して各々が内で胸膨らませる次の構想みたいなものが良かったなぁと思いました。書かなければいけない性分。それゆえの孤独や業、みたいなものを感じる作品です。

 

語られないこと

 一番面白かったのは、個々人の「語られないこと」が徐々に明らかになっていくところ。その様子はとてもスリリングで、人間というのは意識的にも無意識にも他者に対して語ることと語らないことを振り分けていて、読んでいることが、見ていることがすべてではないということを改めて思い知りました。小説ではまず初めに5人の視点が順番に切り替わり、この木曜の集まりに対して自分の思惑、スタンスが読者に対して提示されるのですが、当然それだけではなかった。その辺りは伏せますけれど、みんな色々と含むところがあるのだなぁ…という。なので、すべてを読んだうえでもう一度読むのも面白い作品だと思いました。そのうち読み直したいと思います。

 

 

 ということで、恩田陸さんの『木曜組曲』を読み終わりました。作品としては地味かもしれないけれど、メディア化されたらどうだろう?演出が難しいかなと思っていたら既に映像化されていたのですね。尚美役が富田靖子さんなの、すごくわかる~となりました。