8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

彩瀬まる『桜の下で待っている』感想

 彩瀬まるさんの『桜の下で待っている』を読みました。

 

桜の下で待っている (実業之日本社文庫)

桜の下で待っている (実業之日本社文庫)

 

 

 彩瀬まるさんの小説を毎週のように借りる日々。好きな作家さんを見つけた瞬間というものはとても幸運だ。

 今までどの作家の本を一番読んできましたか?と聞かれたら、私は「恩田陸さんのです」と答えるでしょう。でも、「この作家さんらしい」という、そうだな「雰囲気」みたいなものを言語化するのは、少なくとも私は容易にできることではない。空気感を、言葉にならないものに言葉を与えるのはなかなか難しいことだ。

 彩瀬さんの小説は、ではどうなのだろうか。その著作をまだ読み始めた段階だけれど、「ああいいなぁ」と思うところはたくさんある。例えば優しいところ。例えば自然の描写が瑞々しいところ。例えば細部をきっちり書くことがあること。特に最後は、食べ物のメニューとか服とか、生活の細部を詳しく記述している一文を見るような気がする。私はそういう生活感、その人らしさ、価値観を感じさせる文章が好きなようなので、彩瀬さんの小説を読むのが楽しい。

 この作品とはあまり関係ないことを書いてしまった。

 この小説は「ふるさとの話」と解説に書かれていた気がする。確かにそうだ。短編がつらなって作られたこの小説。どれも家族の物語ではある。ただ私自身が「ふるさと」の考えが希薄なこともあり、それよりは「登場人物が自分の中の残像と向き合う瞬間を覗かせてもらっている」と感じた。その残像は、例えばこの世にはいない人、とか、これから出会う人、とか、今隣にいる人、とか。

 小説のいいところは、自分とまったく重ならなくても読めるということ。わからないけれど、もしかしたらわかる日が来るのかもしれないな、だといいな、と思いながら私は読みました。どの話も好きだけれど、今一番好きなのは『菜の花の家』です。瑞鳳殿、行ってみたい。