8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

島本理生『夏の裁断』感想

 島本理生さんの『夏の裁断』を読みました。

 

夏の裁断 (文春文庫)

夏の裁断 (文春文庫)

 

 

 私はほぼ毎週図書館に通うのだけど、手にとってはなんか違うな、とまた本を棚に戻す。そんなことを3回くらい繰り返しようやく借りることにした。結果読んでよかったと思うのだけど…(逆に「読んで駄目だった」と思う本はなかなか無い)。

 文庫版で借りる。「夏の裁断」だけでなく、秋冬春の章が追加されている。「夏の裁断」だけでもいいと思うけれど、その後春までの話を読んだ方が救いがある気がする。

 表紙とタイトルに惹かれた。蝉と足の甲。ふむ。それに夏の裁断、だって。いいなぁ…いいタイトルだと思う。

 

 わからないなと思う。でもわからないからと言って想像を怠ることは良くないと思っている。「読み手の恋愛経験によって感想が変わりそう」そんな感想をちらっとどこかで見たのだけれど本当にそうだと思う。そして私には引き出しとなる経験が皆無だ。わからない。わかる日が来るのか、来ないのかもわからない。

 千紘がどうして柴田のような人間に翻弄されることを許しているのか、わかるようでわからない。自分が千紘の立場だったら?柴田を拒めますか?いや、そもそも私はそんな人間と関わらない、柴田も私に声をかけない、そう思っているけれど、もし柴田が自分に声をかけて抱きついてきて、その時拒めますか?・・・。わからない。

 大学教授(千紘の学生時代の指導教官だろうか)との会話が印象的だった。「他者に自分を明け渡さないこと」「どうして自分の違和感をないがしろにするの?」ハッとした。そうだ。これは千紘だけにあてはまることじゃない。全人類に言えることだ。自分が自分であること。他者に弄ばれないこと。都合よくつかわれないこと。対等であること。教授に惚れている自分がいる。知性を尊ぶ傾向。穏やかな佇まい。私が欲している雰囲気。

 食べ物の描写が好きだ。食べ方が綺麗な猪俣君、かつおだしを使わないお隣さん。母親のきんぴらごぼう。味覚が感情とつながっている。

 さっきから「自炊」するために本を裁断する音が耳で鳴って仕方がない。じょきり、シュタッと切り落とされる本。官能的、と書かれていた。これはなんとなくわかる。体が疼く。そう考えれば「夏の裁断」はその章で完結しテンポが独特で小説なのだけど小説っぽくない。説明も少ないし、あ、独立している。秋冬春の章は、ゆったりと流れ連続し繋がっている小説っぽい話なのかもしれないなと思いました。やっぱり「夏の裁断」いいなぁと思いました。