8月2日の書庫

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江國香織『抱擁、あるいはライスには塩を』感想

 江國香織さんの『抱擁、あるいはライスには塩を』を読みました。

 

 

 

 

 充実感ある読書体験でした。すごい。三世代が一緒に住む家族の物語なのだけど、1960年から2001年まで、断片的に紡がれる物語。時系列がちょっと前後することもあるのだけど、柳島家という一族がそんな風に40年間過ごしてきたのか、家族それぞれの物語がありつつ一族の盛衰みたいなものも感じられる話です(盛衰というほどのものではありませんが)。

 望、光一、陸子、卯月という第三世代を中心としたとき、彼ら彼女らきょうだいからみて、「父」「母」「叔母」「叔父」「祖父」「祖母」という位置づけである第一世代、第二世代の人たちも、恋をして別れ愛し憎む、そんな時代があったということ。感慨深いです。なんというのでしょうか、家族としての役割とは別で、彼ら彼女らも当たり前に人間なのだということ。家族で暮らしているとそういうことが役割にかき消されるような気がしたのでした。

 いわゆる「普通の」家族ではないのだけれど、いきいきとしていて人間らしい。どこか開放的だけどすごく縛られている部分もある。そのギャップが劇薬のように体にまわります。これは、すごい小説だ。大きいと思います。