8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

能町みね子『結婚の奴』感想

 能町みね子さんの『結婚の奴』を読みました。

結婚の奴

 

 1月ぐらいに読んではいたのですが、今回もう一度読み直しました。

 性愛でつながらない結婚に至るまでの道のりを描いています。すごく面白かったです。かなりおおっぴろげに書かれている印象でハラハラどきどきしながら読みました。読みながら私自身の考えも見直したりして。これは仲良くなった人に薦めて、読後どう思ったか聞きたい内容です。色々書きながらまとめたいことがあるので、キーワードを立てます。

 

生活を立てる

 一つ目は能町さんが結婚に至った理由です。何故結婚をするのか、何故一人暮らしではなくあえて結婚をするのか、ということ。帰りにハーゲンダッツを買おうと思うこと。サダハルアオキのケーキを買ってシェアすること。ポプテピピックを一緒に見る人間がいること。一緒に旅行すること。朝ごはんを食べること。お店で見かけた洋服が「○○に似合うな…買って帰ろう」と思えること。本のあちこちに理由が散りばめられているような気がします。誰かがいることで自分も立つことができる、ということがある。誰かに見られているからまともでいられる、ということも。だから一緒に暮らす。

 

結婚圧

 「結婚しなければいけない」という圧力は、あまりそういうことに頓着しない私でさえ感じるものがあります。昨年はまさにそれで、でもそれは「結婚しなければいけない、という圧力は依然としてこの世にまだ存在しているみたいだけれど、私はそうは思えない。そもそも結婚って何ですか。例えば親しい友人と一緒に暮らしていくことは結婚とは呼ばないのですか」というはてなマークがいっぱいの未知の怪物、みたいなものでした。結局よくわからず「結婚というのは人と人との関係性の名前なんだな、多分世の中的にもはっきりとわかっているものではないな!」ということで落ち着きました。

 能町さんの試みは「結婚を能町さんなりに再定義する」ものだと思います。というか構築?ポイントは多分性愛を挟まない…だと思うのですが、昔から恋愛結婚ばかりが結婚ではないですし、私たちも結婚というものがよくわかっていない中「結婚しないの?」という言葉を発しているような気さえします。そう思うから私は結婚圧力についても特に気にはしないのですが、何が私たちに「結婚しないの?」と言わせているのか、ということについてはもう少し自覚的になる必要があるかもしれません。その言葉に過剰に傷つく必要もないので。

 

恋愛

 「わかる~~~~」となったのは、「カプリチョーザ」の章です。恋愛至上主義ブラックホールみたいにみんなを飲み込んでしまう「恋愛」というやつへの懐疑的視線。私も昔から恋愛中心のJ-POPに共感できなくて、一時期は恋愛曲かそうでないか、という観点で聞く曲を分けていたほど(これは少し過剰な反応だったなと今では思いますが)。「それはまだ良い人に会えてないだけ」そう言われてしまえばそれまでで、では私は多分死ぬまで恋愛についてもやもやしなければならなくなる。何故なら「まだ良い人に出会えていないから恋愛できないと言っているのであり、良い人に出会えたら恋愛できるよ」ではないことを証明する機会は、死ぬ間際にしか許されてないからです。

 ということで、私は恋愛とやらについて考えるのをやめたわけですが、「恋愛に向いていない」という可能性?が能町さんのさらっとした言葉で提示されたのは救いだなと思います。本当に好きな人ができないので、私は恋愛に向いていないのだと思います。他の人はごく自然に恋愛しているのにできないのだから。もちろんこの先恋愛する可能性はあると思いますが…どうなのでしょう。

 

生活観

 面白かったなと思ったところがあります。能町さんがかつてお付き合いされていた方との初対面のエピソード。ネットでの交流はあったものの初めて会った日に、焦れた能町さんの突撃で相手の方の家に行っちゃうぞ!!!というところ。

 他人を部屋に招くということの心理的負荷がこの時点で違うもんだなぁ~(なのにお二人は付き合っちゃうわけです)というところ。他人を極力部屋にあげたくない能町さんとネットで交流しているとは言え初対面の人間を片付いていない自宅へあげちゃう相手の対比。むしろ一緒に暮らすというのはそういう細かな価値観を擦り合わせていく必要があるのであって、恋愛の名のもとにそれを調整したり見なかったことにしたり気にしなかったりする方法もある一方で、最初からある程度価値観が合う人間を選んで一緒に住んでしまう(友人との同居とかはそっちか)やり方もあるのだな、と。

 

章立て

 各章のタイトルが好きです!!!憧れる!!!

 

 

 これは能町さんがいかに暮らすか、その試行錯誤の過程であって、それは「結婚」という言葉でパッケージされているものの内容は能町さんだけのもの。言葉で簡単にまとめられる一方で、その中身は千差万別多種多様であるということを感じずにはいられません。そういったディテールが何事にも存在するということを改めて意識しなければいけないし、一つの言葉に対してもパッケージで曖昧になった意味だけでなく、実際そこには何があるのかということにできるだけそこに切り込んでいきたいなと思いました。

 能町さんの結婚生活がこれからどのようになっていくのかわかりませんが、またガラリと変わったりそうでなくても結婚生活レポートのようなものが出たら読んでみたいなと思いました。