8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

近内悠太『世界は贈与でできている ―資本主義の「すきま」を埋める倫理学―』

近内悠太さんの『世界は贈与でできている ―資本主義の「すきま」を埋める倫理学―』を読みました。

世界は贈与でできている――資本主義の「すきま」を埋める倫理学 (NewsPicksパブリッシング)

 

結構読むのに時間がかかって、というのも途中まで読んだものを最初に戻って一気に読み直しました。読むこと自体はさほど時間はかからないと思います。読みやすい。

 

まずは本の装丁が好きというか特徴的です。表紙は真っ白にタイトルと著者名、本の中で出てくるキーワードが並べられています。白と文字の黒。しかし背表紙を見てみると鮮やかなオレンジがぱっと目に飛び込んでくる。なんというか、二面性があるというか、平置きと本棚に陳列していた場合に抱く印象が変わるだろうなぁという感想です。

内容は、自分としては「それほど新しいか?」と思ったのが正直で、というのも自分が内田樹氏の本を割と読んでいたからだと思います。一番スリリングだと思ったのはサンタクロースが登場する4章かな…。そして重要なのは、様々な思想家が引用されているので、この本を起点に放射状へ思考が広がるだろうということです。私はそちらの方がワクワクしています。参考文献もまとめられているので、気になった本を読みたいと思っています。

 本書を踏まえて私が気になった点は2つ。

  1. 想像力が贈与を支えると思うけれど、ではその想像力を養うにはどうすればいいか
  2. 贈与の失敗(というか呪い化)への対処はどうすればいいか

想像力がないと贈与になかなか気づけない。気づけないと贈与が始まらない。だとすれば必要になってくるのはいかに贈与する人を増やしていくか?だと思うけれど…。

印象的だったのが献血の話。特に若い人たちの間で献血に行く人が少ないという実態を踏まえて、それは献血の効果(というか存在価値?)がわかりにくい・見えにくいからだという指摘。特に調べずに私なりの理解を書くと、献血というのは医療現場にとっては欠かせられないものであり、輸血や多分血液製剤とかで利用されるもので、人工的にはなかなか補うのが難しいものだと思っている。私は例えば医療や恋愛ドラマでなんとなくそうなのかなーと、このようなイメージを作ってきた。多分そのイメージを作ることが「想像力」の出発なのだと思う。そこから「もし血液が不足したら?」という問いが生まれれば、多分想像力の欠如の問題は取り沙汰されていない。

私が思うに、これは「方法論」ではないか。問いの立て方というのは考え方の一つの方法?スタイル?テンプレ?で、私は多分どこかでそれを教わったのだろう。主に教育の現場から。教えてもらったものを自分流に使っているだけ。だからまずは「教えてもらうこと」そしてそれを「使えるようにすること」が大事なのかな…というのが私の実感に基づいた意見です。

献血の話で言えば、さらに私の友人の話も書いておきたいです。

私は献血には行ったことがあるのだけど、血中の赤血球の濃度かな。それが微妙に基準に達していなくて献血できなかったことがある。てっきり献血できるものと思っていたから、献血には様々な基準があって「献血します!」と手を挙げてもできるとは限らないことをその時に知った(そして無料でいただくことができたお菓子を食べた後だったのでとても後ろめたかった)。私個人の話は置いておいて、私の知人は身内が医療従事者であることもあって献血の重要さがわかっていたし身近なものだった。私が出会った時から既に何度も献血しにいく「プロ」だったのだが、その知人が献血エピソードを語るときそれは実にポジティブなものだった。学生だったので現金なもので、無料でお菓子や飲み物を食べたり飲んだりできて社会貢献できるんだよ~~~、と知人は笑顔で喋っていた(もちろんお菓子や飲み物は目的ではなくおまけなわけだが)。ああ、気軽に行くことができる場所なんだな献血って。そう思わされたことも、きっと私が献血スペースにふらっと立ち寄ることができた要因だと思う。

何が言いたいのかというと、知人のその楽しそうな姿勢はそれだけで贈与であったのだなということ。これは「賦」の実例であると思うし、贈与と言うのはとても自然なものでポジティブなものなのだ。そして自発的。誰かに強制されるものではない。

知人の献血エピソードから、私は「楽しそうでいる」ということが結構大事だと思っています。楽しそうな姿からポジティブな印象を持ってもらえれば、誰かが後に続くかもしれない。別にこのブログが贈与だと言いたいわけではないけれど、私も日ごろ読んでいる好きなブログがあって初めてブログをやろうと思ったわけだし。

ということで、自分にとっては割と「そうだよね」と思っていたことを改めて言語化してもらったような、そういう本だったと思います。