8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

アガサ・クリスティー『オリエント急行の殺人』

 アガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』を読みました。

  これもまた、三谷幸喜のドラマを先に見てしまっているので結末は知っているけれども…にしても、面白い。何故これほどまでに面白いのか。考えてみる。

  • さっぱりしている
  • 無駄がない
  • 女性が活躍している
  • 人間が掘り下げられる

 こんな感じ。私は特にさっぱりしているというところが好きで、事件の全容が明らかになるとあっという間に終わっちゃうところがすごい。全然べたべたしていない。甘ったるくない。展開が早い。2つ目の「無駄がない」にも通じる部分で、クリスティー、とても簡潔。動機の部分だってもう少し掘り下げられることもできるだろうに、それはしない。登場人物たちにも多くは語らせない。

 だけど多くは語られないからこそ、「何があったのだろう?」と読者が考える余地が与えられる。犯人はここまでの道中何を考えて生きていたのだろう?と。そしてゾッとする。犯人にとって、これまでの道のりはもはや狂気が日常になったのものである。一人の人間をこの手で捌きたいと願い、淡々とその目的に向かって準備していく。怖い。ということで、人間をいくらでも掘り下げられるってのもクリスティー小説の好きなところです。怖い。オリエント急行。その中で普通に振舞っているポアロもやばい。

 あとはメアリー・デブナム、ハバード夫人、アンドレニ伯爵夫人など、女性が大活躍するのも見物。特にメアリー・デブナムとポアロのやり取りには痺れます。ポアロ楽しそう。こういう言い方は好まないけれどクリスティーの小説は女性に人気がありそうだなと思います。どうなんだろう。読んでいてスカッとするから。男に一本取ったぜ!というカタルシスではなくて、そこで生きる女性たちは強いなと思うからだと思います。

 そして、やっぱり日本で生きる私には得られない感覚があるのも面白い。様々な国籍の人が乗っているオリエント急行。作中でも、アメリカ人は~~~とかイタリア人は~~~とかイギリス人は~~~とか、根拠のない?(あるいは経験的な主観による判断)国民談義みたいなものが飛び交っている感じ。これは映画でもうまく再現されていたのだろうか?映画も見てみたいなと思いました。