8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

ジュンパ・ラヒリ『べつの言葉で』感想

 ジュンパ・ラヒリの『べつの言葉で』を読みました。

べつの言葉で (新潮クレスト・ブックス)

 私の中でいくつかのルールがあって(本を読むこととは関係ないことでもたくさん)その中に、毎月1冊から数冊、本を買う、というのがある。普段は図書館本を読むことの多い私が、新しく出版された最近の本に触れる機会でもあるけれど、どんな本を買うかはあまり決めていない。書店に行って心惹かれたものを、が唯一の基準だろう。

 さて、私は10月の本としてこの本を買った。同じく10月にこの本を図書館から借りていたにも関わらず、だ。それは何を意味しているのか。私はもう一度読みたいし、これから何度でも読み返すだろうということだ。

 ラヒリは、両親が話すベンガル語と自身が用いる英語という二つの言語に引き裂かれている。どちらにも染まり切ることができないことの収まりの悪さ。彼女はやがて自身でベンガル語でも英語でもない、イタリア語という第三の語を見出し、ついには慣れ親しんだアメリカを飛び出しイタリアに移住してしまう!この本はそんな彼女がイタリア語と向き合う過程を描いたエッセイである。

 

dorian91.hateblo.jp

 

 ちなみに、先日読んだ『わたしのいるところ』は彼女がイタリア語で書いた小説。すごい。ちなみにちなみに、完全にラヒリさんの小説というか姿勢?に心打たれた私は、彼女の短編集(こちらは英語で書かれたもの)である『停電の夜に』も読んでしまった。これからまた別の作品も読んでみるつもり。

 この言語に引き裂かれるという感覚は私にはまず無いもの。それが幸せだとか不幸せだとか、言うつもりはないが、その「引き裂かれる」という感覚が無いということすら自覚する機会がない、というのは興味深いこと。私が話すこの言葉が、この日本語でコミュニケーションができるということは当たり前のことではないということに改めて気づかされた。多和田葉子さんの『地球にちりばめられて』も読み始めているけれど、驚くほどつながっていて震えている。母語とは何か。言葉を使うことができているということは何か。ぼんやりと考える日々だ。

 この表紙もめちゃめちゃ素敵。

 正直まだまだ内容を咀嚼しきれていないと思っているので、これから何度も読むために買ったと言ってもよい。