8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

ミランダ・ジュライ『あなたの選んでくれるもの』感想

 ミランダ・ジュライさんの『あなたの選んでくれるもの』を読みました。

あなたを選んでくれるもの (新潮クレスト・ブックス)

 映画の脚本の執筆に行き詰った著者が、フリーペーパーに売買広告出す人々を訪ね、話を聞き始め、その内容をまとめたフォト・インタビュー集。

 プロの写真家の方なのだろうけれど、差し込まれる写真一つひとつがとても鮮やかでハッとさせられます。白と黒の活字を夢中で読んでいる中、ぺらりとページをめくった先に広がる写真の世界。どれも素晴らしかった。こんな風に文章と写真がミックスされた本が私は大好きだ。紀行文とかに多い。私の好みは、写真に対して文章が多め。カレーライスは、ルーとご飯の比率が2:8くらいでいいのだけれど(だから市販のレトルトルーのルーの多さには辟易する。もちろんレトルト「ルー」なのだから、ルーが5でいいのだ。だけどそれに合わせると私が食べるべきご飯の量はどうなる?)それと同じくらいかも。3:7でもいいかな。

 さて、書かれていることについても。面白かった。特になんだっけ、クリスマスカードを売っている人か、ヤバそうな男の人が登場した回はドキドキしてしまった。著者の緊張感がひしひしと文章に現れていて、現実と夢の境い目って曖昧だよなぁと考えさせられた。

 私が普段誰かとコミュニケーションするとき、前提にあるのは関係性が継続することだと思う。私とあなたの関係はこれからもある程度は続いていく。1日かもしれないし、1週間かもしれないし、20年かもしれない。だから関係性を維持するということに注力し、話すことは制限されてしまう。他人に対して、己の全てを明かすことなどできやしない。相手を困惑させるだけだし、私も明かしたいわけではない。

 このインタビューは「もう一度この人と会うかもしれない」という関係の継続性が弱い感じがする。インタビューを経て著者自ら足を運びもう一度会うこともあったけれど、大体は1回きりではないか?1回だけの関係。そこで語られるとりとめもない話が面白いのだ。話の内容を予測することができない。語る本人だけの生々しい話。私は、語る本人だけしか語れない話が好きだ。それ以上に価値がある話などあるのか?このインタビューでは、語る人たちだけの生々しい話がたくさん登場してくる。

 

 一方で、聞き手としての在り方には常々気を配らなければならないと思う。相手を搾取しようと思えばいくらでもできるということを忘れてはならない、感じ。というか、「話を聞く」という行為が、もうそういう性質を孕んでいる。搾取とか一方的とか上からとか線を引いてとか。なので、ミランダの試みはとてもセンシティブな問題に触れているとも感じました。方法が好ましくないとは全く思わなかったけれど。相手へのリスペクトが必要だし、ミランダは相手を理解したい、理解できないことを理解したい、という意思を感じたから。そして、一番大事なのはミランダとインタビュイーの関係性なのだ。