8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

ベルンハルト・シュリンク『週末』感想

 ベルンハルト・シュリンクの『週末』を読みました。

週末 (新潮クレスト・ブックス)

 

 新潮クレスト・ブックスを片っ端から読む、みたいなチャレンジをしているわけではないですが、図書館の開架をめぐる中で一つの判断基準にはなる。今回も新潮クレスト・ブックスから。

 まず表紙がいい。たまらない。初読みの作家ベルンハルト・シュリンク。『朗読者』?という話が有名らしい。そちらはまだ手に取れていません。機会があれば手に取りたいと思っているところです。

 恩赦で釈放された元テロリストのイェルクが、自身の姉や旧友たちと過ごす週末の物語。イェルクだけでなく様々な視点で丁寧に描かれていきます。

 正直最初は読み進めるペースが遅くて「これは読み通せず返却するパターンか?」と思ったわけですが、次第に波に乗ってきてトントンと読むことが出来ました。初めて読む作家さんはまず文体に慣れるところから始まるのですよね、楽しい。昔はもっと読み終わることが出来ない本も多かったけれど、自分の中で「この作品は何を言いたいのか」ということを気にしなくなってから完読率も上がったような気がします。言いたいことがスパッと言えないからこそ小説を書いているだろうと思って、そこは割り切っています。途中の描かれ方がひたすらに好き、みたいな小説も多いですし。

 元テロリストの旧友がいたとして。私ならどうしたでしょうね。テロ行為次第にもよるのかな。例えば大義名分は?彼や彼女のテロ行為による被害は?冷戦下のテロと、21世紀のテロでまた内容は変わっていくし、私はテロを厳密には知らない世代なのでしょう。幸運にも。

 この物語でイェルクは赤軍のテロリストだったと記憶していますが、ある登場人物の視点でまったく別のテロ行為、世界同時多発テロも想起させる描写があります。イェルクは世界同時多発テロとは何ら関係ないですが、同じテロという単語で繋がるふたつの事件、ふたつの時代、加害者目線、被害者目線の交錯みたいなものが、読んでいて一番印象的だったかもしれません。

 あとは庭の描写ですね。庭に雨が降る描写がとても印象的でした。実際に彼ら彼女らが終末を過ごす場所を想像しながら読むと、また楽しかったかもしれませんね。私は物語を追うので精いっぱいになっていたのでその点は勿体なかったかも。