8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

アリ・スミス『秋』感想

 アリ・スミスの『秋』を読みました。

秋 (新潮クレスト・ブックス)

 

 めっちゃ良かった…。読んでいて楽しかったし沁みました。

 EU離脱ブレグジットに揺れるイギリスが舞台です。眠り続ける時間が長くなった101歳の老人とその傍らで本を読む女性エリサベス。彼女の今と過去と老人ダニエルの世界が入り乱れながら進んでいく物語です。

 

 人生のことを考える時、断片的か連続的かということを考えます。人生は流れ続けるものであり切れ目がないようで、実際に後から手に取れることは断片的な記憶でしかないのでは?とか。

 『秋』というのは記憶の断片で構成されている話で。その一つひとつがエリサベスにとって大切でかけがえのないものであるのがよくわかるし、どの話も素晴らしいと思います。なんというか、人が誰かについて、何かについて考える時と似ている話という感じ。少なくとも私はそういう部分でこの本に惹かれました。誰かのことを思い出したり、今に戻って目の前にある出来事、町の風景に焦点が合ったり。

 ダニエルとの問答もとてもチャーミングでした。彼女にとってのダニエルって、様々な関係性のラベルでは括れない、ただの「ダニエルさん」なんだろうな…。こういう人物が傍にいたというのは幸運かはどうかさておき、人格形成、ものの考え方を構築する上ではめちゃめちゃ刺激的だったろうなと思います。ダニエルさんみたいな人、私にもいたらいいのに。あるいは、私が誰かにとってのダニエルさんになることはできるのでしょうか。

 翻訳されていない続刊『冬』『春』『夏』が刊行されることを願って。