8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

千早茜『透明な夜の香り』感想

 千早茜さんの『透明な夜の香り』を読みました。

透明な夜の香り (集英社文芸単行本)

 

 千早さんの本を昨年らへんから読みだしたと思う。毎回取り上げる設定そのものが興味深いのもさるところながら、食べることを大切にしているところに嬉しさを感じる。私は食べることが好きだから。

 この小説はどんなだった?と聞かれたとき、答えるのが少し難しい。自分の中で言語化できていないと感じるのだ。一歩踏み出す作品だと思う。千早さんの著作は主人公が新たな世界へ、踏み出す過程を描くものが多いと思う。

 それとは別に私は「僥倖」について考える。「予想もしなかった幸運」を「僥倖」と呼ぶ。私にも僥倖が訪れないかなぁとか思っている。そう言っているやつにはいつまで経ってもやってこないというのは古来からの教え。

 主人公の一香は書店員の仕事をとある事情で離れ引きこもりに近い生活の中「たまたま」オーダーメイドの香水を作る朔の求人を知る。それは僥倖。朔に選ばれるのも僥倖だと思う。「すまし顔だけど、あんためちゃめちゃ幸運だよ」とか毒づく私がいて、情けなく少し面白かった。でもそれは別に一香に非があることじゃない。ただ私が自分が持っているものに無自覚な人間が、時々腹立つだけ。

 一香の自分に対する無頓着さ、欲のなさに苛々してしまった。でも朔さんのレシピがあるとは言え、見事な手料理を毎日振舞うところ(もうそりゃあ憎らしいほど当然に作ってみせるのだ)自然を見つめる眼差しが好きでした。最初の大家さんの薔薇のシーンで、この人が見る世界は寂しいけれどすごく瑞々しいと思った。