8月2日の書庫

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アガサ・クリスティー『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』感想

 アガサ・クリスティーの『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』を読みました。

なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか? (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 ああ、文庫本の表紙がいいですね。めちゃめちゃいいです。

 ということで読みました。ポアロミス・マープルも登場しません。退役軍人のボビイとおてんば伯爵令嬢のフランキーが主人公です。探偵でもなければ安楽椅子探偵でもないとなると、まず「どのように事件と出会い」「どのようにそれと関わっていくのか」というところがとても大切になるのですね。

 私はサスペンスドラマを幼い頃からよく見ていたのですが、温泉の若女将とか、銀行員とか、ルポライターとか、人類学者とか(もちろんどのシリーズも好きです)どうやって事件に出会うの?という人たちが持ち前の好奇心と巻き込まれ体質によって事件にのめり込んでいく、というケースは例外であり、今回のエヴァンズ~は、主人公のボビイが事件と偶然関わってしまい、さらには犯人に命を狙われるという導入でした。そりゃあ、事件を解決せねばなりません。

 今作も面白かったですねえ。エヴァンズは全然登場しないし。ボビイも嫌なキャラじゃないし。なんといってもおてんば伯爵令嬢のフランキーがまあ自由に突っ走ること。このタイプの主人公はクリスティー作品でも珍しいのでは(まだまだ読めてないですけど)。疑わしい一家と、刑事でも医者でも探偵でも弁護士でもないボビイたちがどのようにコンタクトをとるのか、やり方が強引すぎて笑ってしまいました。良いキャラです。

 

 

 

 

 

 

 これはもう種明かしになってしまいますが。

 狡猾で倫理観もぶっ飛んでいる犯罪者が魅力的に描かれがち(そして優秀)というのはクリスティー作品によくあることだと思います。ハンサムというか、人としてめちゃめちゃ能力が高く人を惹きつける才があるものだ、というのがクリスティーの人間観なのでしょうか。結局ボビイもフランキーもそれぞれが犯罪に手を染めたやばい人物に惚れてしまっているという構図が、なんというか、最後の結末まで読むと寓話的といいますか、教訓めいた雰囲気を纏っているような。「そして、二人は幸せになりましたとさ。ちゃんちゃん♪」と語り手がおどけた感じで幕を引く感じ?わかります?そういう収まりの良さを感じました。好きです。ボビイとフランキーに幸あれ。