8月2日の書庫

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恩田陸『光の帝国 常野物語』感想

 恩田陸『光の帝国』を読みました。

光の帝国 常野物語 (集英社文庫)

 

 おそらく今までの人生で一番著作を読んだ作家を挙げるならそれは恩田陸。今回は常野シリーズから『光の帝国』を読みました。先日『エンド・ゲーム』を読みましたね。この本に収録されている短編「オセロ・ゲーム」はその前日譚と言えます。

 

 耳が異常に良かったり未来を予知したり、不思議な力を持つものの人知れず野に散り穏やかに生きる常野一族の物語。こういう異能もの、好きです。どうして好きなのでしょう。恥ずかしいですけれど「自分にもこういう力があったらいいのにな」と思いはあって、憧れの誰かを見かけるようにドキドキするからでしょうか。

 とはいえ、異能の力に困難はつきもの。悲しいかな、出る杭は打たれてしまうのです。「光の帝国」などはその最たるお話で、私たちはただ穏やかに淡々と過ごしたいだけなのに!時代が、人間がそうはさせてくれないのでした。

 

 一番好きな話は「草取り」。誰にも知られず感謝されず黙々と草取りに勤しむ人たちのプロフェッショナルな雰囲気に魅了されました。誰かの感謝をエネルギー源にすることって、私はすごく不安定で脆いと思うのですよね…。できれば誰かから感謝されなくても邁進できる何かがあれば、それは幸せなことなのではなかろうか、少なくとも私にとっては…。

 また、建物や街路だけでなく、人間からも植物が生えてくる、という設定がとても好きです。『エンド・ゲーム』にも通じる話です。確かに人間は見えない病のようなものに侵されているのかもしれない。草取り屋の印象的な言葉で締めたいと思います。さて、私の体から植物は生えていないのでしょうか。

「毎日を大事に暮らすことさね。しっかり目を開けて、耳も掃除して、目の前の隅っこで起きていることを見逃さないことだね。そうすれば、あんたの背中には草は生えない。草の生えない人間が、世界に生えた草を取ってくれる」