8月2日の書庫

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江國香織『東京タワー』感想

 江國香織『東京タワー』を読みました。

東京タワー

 

 開架で何度も見かけそのたびにぱらぱらとめくり結局棚に戻していたこの本を読もうと思ったのは、何度目かの立ち読みでたまたま読んだシーンがものすごく静かだったからだ。静かな小説を読みたかったので、丁度いいと思い借りることにした。静かであるという印象が裏切られることはなかったが、同時にとても情熱的な内容だったと思う。

 大学生の透と耕二は高校時代の同級生。二人のもう一つの共通点として、伴侶を持つ年上の女性との関係を持っている、というものがあった。透と耕二それぞれの視点でそれぞれが愛する女性との関係とその変化を描いていく作品である。

 度数の高い酒を呷る、喉が食道が胃が、かっと熱くなる感覚に似ていた。きりきりしてハラハラして熱い。

 印象的だったのは、透、耕二とそれぞれの年上の女性との間にあるものの性質の違いだった。うまく言えないけれど、透が詩史といるとき、彼の世界は拡張する。そのようなことを透は感じている。詩史と一緒にいると世界は広がっていく、と。逆に耕二が喜美子といるとき、ある種の視野狭窄ではないけれど、世界がどんどん深く狭まっていく印象を受けたのだ。耕二が具体的に「狭くなっている」とか「深くなっていく」とか「暗くなっていく」という表現をしたわけではないけれど、第三者的に見るとそう思えた。喜美子といるとき、耕二には喜美子しかいない。逆に喜美子にも耕二しかいない、のかしら。二人の女性の目線では描かれないので分からないけれども。

 江國さんのあとがきも秀逸だった。「あらあら」とか「あらまあ」とか心の中で呟きながら読んでいたことがばれていたみたい。

 倫理的にああだこうだと断ずることはできないし、するつもりもない。それぞれがひとつの出来事でしかなかった。そしてそこには第三者が知り得ない、彼ら彼女らだけの何かがあって、それは豊かなものなのだと思っている。