8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

恩田陸『スキマワラシ』感想

 恩田陸『スキマワラシ』を読みました。

スキマワラシ (集英社文芸単行本)

 

 作中の季節が夏ってわけではないのだけれど、これは夏に読みたいなあ…と思わせる鮮やかな青と涼しげな少女の表紙が印象的。

 気になって書店でぺらぺらとめくった時に抱いた印象はそれとして、読み進めるうちに少しずつこの本に対する印象が変容していった気がします。二人の兄弟が何かを探していく話なのかと思っていたけれど、《探し物》にありがちな青っぽさがそこまで気にならないというか。これはあくまで個人的な感想ですが。

 おそらくその理由として、大いなる謎に挑んでいく謎解きでもありつつ、時々出現する「スキマワラシ」と対峙するシーンがホラーっぽくかなり「読ませる」からだと思います。他の人はどうか知らないですけれど、私は結構怖がりながら読みました。恩田さんの表現力でホラーは怖いです。

 タイプでいうと『消滅』っぽい話だなと思いました。現代に生きながら、未知の事象、予期せぬアクシデントに見舞われ、いつの間にか巻き込まれていく話。「何故他でもない現代に生まれついてしまったのか」という太郎の問いは、ハッとさせられるものがありました。生まれついたのだからそういうものじゃない?そこに意味を見出すのは人間が好きなことでしょ、とは思いつつ、そんな風に時代を俯瞰して見ることができるのは、骨董を扱う仕事をしている太郎だからこそだと思いました。私も最近古典作品(1月からアニメをやるのに先駆けて先行で配信されている『平家物語』を見て、思わず河出書房新社古川日出男訳を買ってしまった私)を読んでいて、太郎の時代感覚みたいなものの片鱗に触れた気がしました。歴史って大切。

 また、『消滅』で飛行機に乗るのが好きな人が出てきたように、本作では兄の太郎は引手を磨くのが好きという好事家。恩田作品って妙なこだわりや習慣を持った人がたくさん出てきて、そういうところも好きです。

 相変わらず主人公の兄弟がたくさん喋ってくれて楽しかったです。