江國香織『はだかんぼうたち』感想
江國香織『はだかんぼうたち』を読みました。
(私は単行本の方を読みましたが、文庫の表紙かわええ…。)
さておき、読みました。着々と江國作品を読んでいっております。
『はだかんぼうたち』は比較的狭いコミュニティの人間関係がかなり複雑で、唐突に登場するよくわからない人物たちが読んでいくと「ああ、あの人ね」とクリアになっていく感覚が面白かったです。江國さんって『去年の雪』然り、唐突に人間を登場させることもあるのですよね。なんだろう、この唐突さは小説として別に珍しく無いのだけれど、読者を振り払う見事な登場の仕方なので読んでいてすごく目立ちます。作中の彼ら彼女らの人間関係で考えれば別に唐突でもなんでもないのだけれど、読者は「誰、この人」となること間違いなし。スポットライトを急に当てる感じです。
この作品では個人的に気になる登場人物が二人、主人公の一人であるヒビキ(響子)の母親である和枝の恋人である山口、そして和枝が大家である下宿に住む大学生の安寿美。安寿美は物事を俯瞰する立場にいないながらも、仙人のようにふわふわと何か超越したような、そういう風に感じました。彼女自身はいたって普通(そして真面目)な大学生なのですが…この感覚がどこから生じるのか不思議ですが、おそらく彼女だけ他の人物からあれやこれや言及されない立ち位置だからなのではないかと思います。
それに関連すると、山口という人物の描かれ方が面白かったです。響子からは亡き母親が恋した男性であるという信頼、響子の夫である隼人は嫌悪に近い感情を、下宿人の安寿美は郷土の土産をおすそわけしたくなる大家(仮)だけれど、この人大丈夫かなあ、あと良い家人ではなかっただろうなと思われる人。
本来人間というのは他者の数だけその人があると思うので、なんら不思議ではなく当然のことなのですが、絶対的なこの私なるものがあると思ってしまいがちなので、山口に対する印象の差異は読んでいて面白かったです。なんでしょう、山口をどう判断するかがそのままその人の人となりを表している感じがあって、彼はそういう役目を担う人だったのかなと思いました。
『はだかんぼうたち』というタイトルが読んでいくうちに腑に落ちてくる、だけれどどうして納得するのかわからない。そういう小説でした。