8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

アガサ・クリスティー『死の猟犬』

 アガサ・クリスティの『死の猟犬』を読みました。

死の猟犬 (クリスティー文庫)

 

 短編集。率直な感想を書けば「クリスティ、こんな話も書けるのか」と思いました。じわじわと少しずつ圧迫感を強めてくるのは『そして誰もいなくなった』でおなじみ、かの作品が好きな人は好きになれる話も多いような気がしました。『検察側の証人』を除けばホラー・怪奇テイスト強めな話が勢ぞろいですけれど。

 私は特に『最後の降霊会』が強く印象に残っています。

 シモーヌは絶望したように両手を前へ突き出した。
「まあ、どうしてわたしをいじめるの」と彼女は呟くように言った。「そりゃああなたの言うとおりよ。あなたのお望みどおりにしたいけど、今やっと自分が何をおそれていたのかわかったの・・・・・・"母親"って言葉なんだわ」

アガサ・クリスティ―『最後の降霊会』

 本編の主旨とは少し違うだろうけれど、愛情というのは愛情であるのと同時に呪縛でもあり枷であり抑圧でありタフネスであるということ。何かを想うことは、同時に何かを虐げること、蔑ろにすることにつながり、私は時々その傍若無人さが耐えがたくなるときがあります。そのあたりを端的にがりっと描いたこの話が私は好きです。

 

 にしても、読んでも読んでも読んでいない本が存在するクリスティーは素晴らしい作家だし、後世まで彼女の作品を読めるということがありがたいです。結構読んだつもりなのですが。数えたら25冊くらいか。1か月に1冊だと2年のペース。確かにそれぐらいですね。まだまだ彼女の作品で読んでいないものはたくさんあり、ゆるゆると読めたらいいです。