ポール・オースターの『インヴィジブル』を読みました。
初めて読む作家。数ページ読んで、あ、この人が書く話好きかも…と思うに至る。
好きだと思える条件を言語化するのは難しいが、私の場合はさしずめ、
- ディテールの描写にぐっとくる
- 淡白
- 突拍子もないことが起きない(起きても日常からの移行がスムーズで説得力がある)
というところだろうか。プールで思いっきり泳いだ帰り道に歩きながら考えていた。私、正直ストーリーとか深く考えていないよな? 目の前のことを咀嚼することでせいいっぱい。そしてそれこそ物語を消費する醍醐味というスタンスだからか、ストーリーの面白さをあまり気にしない。
その点、『インヴィジブル』は楽しかった。ディテールの描写も好みだったし、ストーリーも「どうなるのだろう?」といい塩梅にミステリアス。かといってストーリーに耽溺する必要もなくて、目の前の一文をただ味わう楽しさがあった。
作中で「自分が泣いていたことに気づいた」という記述があって、私はそれをノートにメモした。いい文章だなあと思ったのだ。泣いていたことに気づかないなんて、ありえます? いや、ありえないことなんてないよ。私はそういう経験ないかなあと思って、いや、あるかもしれないと訂正する。私は映画を見るときによく泣く。このシーンはこの作品における決定的な場面なので良い描写だったなと後から振り返っても思う。
この作品のトリックを初見で見破ることができる人はいないだろう。私はそのトリックを知ってしまった側の人間なのだと思うと徳を積んだ気分になるが、当たり前だが読んだだけでは徳は積まれない。これからも謙虚に生きていきたい。