のもとしゅうへい『いっせいになにかがはじまる予感だけがする』を読みました。
青山ブックセンターの文芸エリアで積まれていたものを手に取り購入して、その決め手は筆者の経歴に記載されていた在住地でした。その町の名前を冠する駅から見える風景が私は好きだったので。
読みながら、不思議な感覚に包まれるお話でした。とくに好きなのは、街の中で魚が集まっていくポイントを知っているおじさん(おじいさん?)と、そのおじさんから魚を買いつける食堂のおじちゃんでした。ビニール袋に入れられた魚たち。海のない、魚屋があまり存在しないこの町に住む私にとって、魚とは白いトレイに並んでラップされたものなんですけど、確かにビニール袋に魚を詰めて買うこともあったよな、ということを考えていました。今は値上がりしてしまったけれど、例えばさんまを青いビニール袋に何尾も入れたり。
そういう、個々人の細かな記憶と作中のエピソードが共鳴し合う、余白のある物語だったと思います。