8月2日の書庫

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江國香織『ひとりでカラカサさしてゆく』感想

 江國香織『ひとりでカラカサさしてゆく』を読みました。

ひとりでカラカサさしてゆく

 

 『去年の雪』を思い出す、多人数視点で紡がれる物語。三人の老いた男女が死に向かうまでの数時間と、彼と彼と彼女が死んだ後の世界の話。恩田陸の『灰の劇場』を読んでいるとなお味わい深いと思います。

 江國香織は湿っぽさがない。悲しさに湿り気がないのが魅力のひとつだと思っている。寂しいけれど明るい寂しさで、読んでいてそこまで辛くない。

 「堅物」を描くのも上手い。そして堅物でも、柔軟でも、誰もにどこか狂いがあるのが好きだ。人間誰もがどこか狂っている方が安心する。

 完爾も、知佐子も勉も、自分の芯を持った人間だった。その瞬間まで気概を持った人たちで、だから「弱って」とか「老いて」とか、そういう軟弱さみたいなものは感じずイメージとして適切ではないのだけれど、大木が倒れたことで開かれた空から光が注ぎ、倒木から植物の種が芽吹いたような図を想像する。彼らが死に、その後の世界も引き続き続いていく。