8月2日の書庫

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江國香織『思いわずらうことなく愉しく生きよ』感想

 江國香織さんの『思いわずらうことなく愉しく生きよ』を読みました。

 

思いわずらうことなく愉しく生きよ (光文社文庫)

思いわずらうことなく愉しく生きよ (光文社文庫)

  • 作者:江國 香織
  • 発売日: 2007/06/01
  • メディア: 文庫
 

 

 あっという間に読んでしまいました。タイトル「思いわずらうことなく愉しく生きよ」という言葉がリズミカルで口の中で転がしながら歩きたい、そして座右の銘にしたい言葉だなと思いました。

 昨年から江國香織作品を読んでいますが、その作品に魅かれるポイントとして、一つひとつのなんてことない生活の一瞬に対する眼差しの深さと温かさがあると思います。アイドルに対して「○○のこういうところ好きだな~~~~」と思うのと似たような感覚。細かい部分で「あ~~~これ愛しい~~~」と心くすぐられるところがある、気がする。

 夫の車の駐めてあるガレージに直立したまま、麻子は真上を見上げる。やさしい青と、やわらかい白。モネの絵みたいな空だ、とぼんやり思う。

とか。モネの絵みたいな空だ、と思う空を見たこと、私にもある。でもそれは10秒後には記憶の片隅に追いやられて再びそのような空に出会うか、なんてことない拍子(例えば小説を読むとか)でポロっと飛び出てこない限り私は取り出せないと思う。でも江國さんはそれを小説に書くことができる。すごいなー、と思う。江國さんの小説は、細部に慈愛が隠れている。そういうところが読んでいてほっとする。その部分に対する信頼が、私を江國作品に向かわせる理由なのかもしれないです。

 麻子、治子、育子。三姉妹とどこかしら似ているようで私は彼女たちとは違う。共感できたりできなかったりするけれど、共感できなくても彼女たちの人生を見ながら自分の人生について考えることができる小説。面白かったです。