8月2日の書庫

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江國香織『神様のボート』感想

 江國香織の『神様のボート』を読みました。

神様のボート (新潮文庫)

 

 「好きな作家は」という質問は私を恐怖させるけれど、「○○という作家の好きなところは」という質問なら意気揚々と答えてしまうかもしれない。

 恩田陸江國香織で共通している好きなところは「だらだら読める」ということである。

 結末なんて正直どうでもいい。そういうスタンスで読む小説は果たして「正しい」読み方だろうかと思わなくもないけれど、はあ?正しいって、何?と私は思うので、小説をだらだら読むというのはこの上ない至福だと認めてしまおう。恩田陸江國香織も、読んでいるこの瞬間がたのしい作家だと思う。それは単に作家と読み手の相性だと思うけど。

 

 『神様のボート』という小説もだらだらしている。葉子と草子の母娘、旅がらすの二人が町々を点々とする話だ。一つの町に住む期間としては大体2年くらいか。葉子曰く「神様のボートに乗ってしまったから」とのこと(ここら辺の話はぜひ作品を読んで正確に掴んでいただきたい。一言で説明するのは難しいのだ)。さて、どうなる、このままだらだらするのか? と思っていたら、終盤になり物語のスピードが一気に加速するのでそこも読みどころ。それまでが、葉子と草子のゆったりと穏やかな暮らしが描かれていた分、ギアが上がってからのスピード感は痺れるものがある。終盤まで読めば、そこからは一気読み間違いなしである。

 江國香織作品特有の感性が好きである。瑞々しい感じがするのである。ああ、そうだよなあ、世界というのはこういう綺麗さを帯びているものだよなあ、と再認識させてくれる。だから、だらだらと読みながら、私は元気になっていく(もちろん作品にもよる。なぜなら江國作品の中には当然シリアスな話もあるからだ。『神様のボート』のシリアス度は星1.5くらい)。作中に登場する町に行ってみたいなという気分になった。