待つ/辻村深月『かがみの孤城』感想
私には関係がない。本当にそうだった?
私には関係がないと思っていました。
辻村さんの著作は多く読んできたし大好きな作品が多いのに、今に至るまで『かがみの孤城』は読んできませんでした。それは、自分とは関係がないと思っていたからです。いや、違うのかもしれないな。
『かがみの孤城』に登場する人物たちは全員が中学生。事情は異なるものの日本の普通の中学校に通っていない中学生たちが城に集められています。「事情は異なるものの」と言いました。が、事情の1つには「いじめ」もあります。悲しいことに。
この物語でも従来の辻村作品のように「生きづらさ」が描かれています。でも、正直学生時代の生きづらさにはうんざりしている自分がいて。もうあの空間で生きることはできないし、戻りたいかと言われると答えに窮するし。もう関係ないし、考えなくていいなら考えずに生きていたい。そういう「あの空間」の物語なわけで、少し本に手を伸ばす手が躊躇してしまいました。
でも、読んでよかったです。愉快な内容ではないので「面白い」と表現するのは憚られますが、面白く読みました。じっくり、でもページをめくる手は止まらない。結局2日ぐらいで読むことができました。
待つ
生きづらさが描かれています。自分はあの空間でどう生きていけばいいのか。そういう問題が緻密かつリアリティをもって描かれています。そういう生きづらさの作品なんだろ?
違いました。
この物語の本質は「つながる」ということであり「誰かが誰かの力になれる」ということです。これらは確かに「生きづらさ」の解決法でもあります。お互い助け合いながら生きていけばいい。だけど、なんというか。この本を読んでいて、自分が生きていく中でもしかしたらふとした瞬間に誰かのためになれているのかな、あるいは、人間にはそういう力があるんじゃないかな、ということを思うことができたのです。とても勇気づけられました。
私はこの小説を読んで、映画『ハウルの動く城』を思い出しました。どれがトリガーだったのかはネタバレになってしまうので明かしません。
良かったです。本屋大賞受賞作品ということで多くの大人も魅了されたのでしょうけれど、この作品は中学生・高校生に読んでほしいです。高校生だと『名前探しの放課後』もおすすめです。