東京會舘
そうポスターが貼られていてもおかしくない。そしてそこで書かれる作文は、きっとこの本の短編一つひとつと似ているのではないか。読みながらまずはそう思いました。だからなんだという話であり、東京會舘をめぐる人々の思い出がきちんと描かれた素敵な小説でした。どの話も非常に優しく、温かく感じました。辻村さんはズキッと心のピンポイントを刺す表現もできる方なので、こういうものも書けるのかと意外に思いつつ、それは意外でもなんでもないなと思いなおしました。
途中で自分で調べるまで、東京會舘という建物が現存する商業施設?だとは思いもしませんでした。この小説でもそうであったように、2018年12月現在で改装工事中、2019年1月には新本館がグランドオープンするのだとか。おおうタイムリー。作中登場した「パピヨン」や「ガトーアナナ」も実際に販売されているお菓子なのでした。知らなかった…。レストラン「プルニエ」もあるし、メニューをちらっと見たら金額に目を剥いた…。格式が高いお店のようです。
東京會舘を知らない私にもこんなに魅力的なイメージを抱かせたのだから、辻村さんのこの本は素敵な宣伝本だなと思いました。もちろん結果的に宣伝効果抜群な仕上がりになってしまっただけで、辻村さんが書きたくてずっと温めていた題材なのでしょう。筆者にとっても思い出深い建物なのだろうと思いました。
場に残る記憶。これって、長く長くその建物が愛されてないと生まれないものだろうと思います。一世代だけであれば同時期に生きる人たちの中でささやかにわいわいと懐かしむことができるのですが、世代をまたいで愛されるためには長い期間その場に建物が留まる必要があるんだなーと。日本は震災も多い国なので建物の周期が早いのでしょうか。神社や寺院はその点むやみに壊されることなくずっとそこにある建築物だなと思いました。
面白かったです。