小川洋子さんの『密やかな結晶』を読みました。
この物語について何か語ることを、私は難しいと感じました。
何かがひっそりと消滅していく島。消滅が始まったら「何か」について思い出すことすら困難になる島。人々はその不条理に抗うことなく、淡々と生きる。消滅の影響を受けず、失われしものの記憶を持ち続けられる人は、「秘密警察」に連行され、一人二人と自分の周りから人が消える島。その島で暮らす一人の小説家が主人公です。
読んでいる身としては、何故この人たちはこんな不条理を受け入れてしまうのか。そもそも問題としないのか。理解ができませんでした。だから読みながら憤ったり。
でも、案外そういうものなのかもしれません。内側から世界に対して疑問を感じシステムに対して異議を唱えることは難しいと、歴史が証明しています。私も、なんだかんだ言いながらこの社会に順応して生きているでしょう?
物が丁寧に丁寧に描かれていてドキドキしました。もはや官能的といいますか、色っぽくて。ショーウィンドウに飾られたものたちをうっとりとした目で見つめているような気分になりました。なんてことない日常は、しかし愛おしい存在。こんな風に日常を愛せるためにはどうすればいいのだろう、と読みながら思いました。こうしてスポットライトが当たれば、「ああ愛しい」と思えるのに。
小川洋子さんの『密やかな結晶』を読み終えました。