8月2日の書庫

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重力に抗ってみる/伊坂幸太郎『重力ピエロ』感想

伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』を読みました。

重力ピエロ (新潮文庫)

認めることはできない。しかし、

私はこの物語の結末というか主人公たちの結論を直感的に「認められない」と思いました。けれど、同時に「嫌いじゃない」と思ったのです。

これがスタンダードであってはならない。それは社会の仕組みをちゃぶ台返しするようなものだから。アウトローな、最強家族の物語。白黒をつけられないのが人間で、その時々で柔らかく生きていかねばならない。そういう強かさについて考える作品となりました。

 

最強の父

とにかく泉水と春の兄弟の父が最高にかっこよくて最強だった。こんなお父さんがいたら世界は幸せな人間ばかりだし、もしかしたら社会は破綻するかもしれない。自分で考えることができ、知ることを続ける人は強い。本当に素敵なお父様だったと思います。

伊坂さんの話は自分の頭で考えるぶっ飛んだ人が度々登場しますが、それを見るたびに勇気づけられるし自分も面白い人になりたいと思うのです。小説を読む醍醐味、それは人間色々で良いということ。肉体の制約、SNSのつながりでもってしても、世界中の人間を知ることはできないけれど、小説の中にはたくさんの人たちが登場してしかも国も時代も様々。人の多様性を知ることで救われることってあるのです。

 

重力に抗いたい

グサッと刺さる言葉が散りばめられている作品ですが、なかでもお気に入りのものを。

「ふわりふわりと飛ぶピエロに、重力なんて関係ないんだから」

「そうとも、重力は消えるんだ」父の声が重なる。

「どうやって?」私が訊ねる。

「楽しそうに生きてれば、地球の重力なんてなくなる」

「その通り。わたしやあなたは、そのうち宙に浮かぶ」

伊坂幸太郎『重力ピエロ』 p.110

 「楽しそうに生きてれば、」ここが好きです。ニコニコしながら喋っているお父さんの顔が目に浮かびます。それに応えるように「その通り」と頷くお母様の顔も。いいなぁ。最強だ。

楽しそうに生きてれば。「楽しそう」ってのが良いです。「楽しんで」じゃない。あくまで「楽しいふり」ってニュアンスがあって。楽しそうに生きましょう。

泉水や春は、その後の人生、楽しそうに生きることができるでしょうか。できる気がします。そういうラストでした。

 

伊坂幸太郎さんの『重力ピエロ』を読み終わりました。