8月2日の書庫

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伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』感想

 伊坂幸太郎さんの『火星に住むつもりかい?』を読みました。

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

 

 

 この物語の世界は果たして「他人事」だろうか?
 私はそうは思わない。ここでえがかれている人間らしさは多分本当だ。小説というのは人間のことを書くものだと思うし。ここでえがかれている人間が本当なのであれば、小説の世界で起こったことも非現実的とは言えないと思う。そうさせる人間の性は、現代で生きる我々にも備わっている。
 ということで、特に前半は気持ちが悪くなりながらなんとか読むこととなった。そのあたりの描写はぱっきりえがかれているような気がします。が、読み進めていくと段々と真壁さんと秘密警察の下っ端による探偵小説みたいな様相になってきた。このあたりからはだいぶ楽に読めるので、前半で心折れそうになった人はもう少し頑張ってみるか、それでも駄目なら無理しなくていい気がします。
 面白かったのは、真壁組は「平和警察」であって、読者から見れば権威を振り回し住民の不安や暴力的な感情を利用して権威にたてつく輩を面白おかしく虐げる最悪の組織、でしかなく(私は少なくともそう思った)「正義」なぞ彼らにはないと思っているのに、彼らの物語を読まざるを得ず、会話のテンポなんかが面白いんだよなぁ…という「悪いやつなのにだんだん憎めなくなってくる」な状態になるのが腹立たしい(良い意味でですよ)。真壁たちが追っているのが読者からすれば「ヒーロー」なのに、読者は悪役の目線で物語を読まざるを得ない。この倒置みたいなものが良いなぁと思いました。
「火星に住むつもりかい?」の言葉がひょっと文中に登場した際は痺れました。そう、私たちは火星に住むことは今のところできない。なおかつ私が人間である限り火星でも同様のことが起きてしまう可能性は否定できない。火星に住めない。住んだところでどうしようもない。では、どうする?というお話です。

 話は落ち着くところで落ち着くけれど、それは希望ある終わり方かもしれないけれど、平和警察の拷問などで追い詰められ亡くなった市民は、生き返ることはないのだよなぁ…と思ったのも書いておきます。小説の中のことかもしれないけれど、それでも。