8月2日の書庫

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イ・ラン、いがらしみきお『何卒よろしくお願いいたします』感想

 イ・ラン、いがらしみきおの『何卒よろしくお願いいたします』を読みました。

何卒よろしくお願いいたします

 アーティストのイ・ランさんと漫画家のいがらしみきおさんの往復書簡。とても楽しく読みました。イ・ランさんのエッセイは以前から気になっており、これを機にいよいよ手を伸ばさなければ、と思います。

 いくつか面白いなあと思ったことがあるのでそれを書きます。ひとつめは「作業室」。この作業室、別にお二人の往復書簡で話題として全面的に取り上げられたわけでもなく、個人的に気になった事柄です。ランさんは他のアーティストと共同の作業室というものがあるようで、作業室仲間と麻雀したり色々な想像をしたりしているみたいです。2020年の時点で7年ということですから相当なもの。いいなあ、作業室、と思いました。自分のパーソナルな空間と、そこから心理的にちょっと遠い別の空間(あ、それこそサードプレイスってやつか)が欲しい。いつか持てたらいいなあと思ったりします。もしその作業室を持てたなら、壁一面本棚をもうけて、好きな本を収納して、机といすを置いて、ただただ何かを書いたり勉強したりしたいです。他のことは一切しない。食事もしないし、ゲームもしない、そういう空間(自分の研究室みたいなものですね)。

 ふたつめは、最後のいがらしさんの最後の一文。色々あって、往復書簡の最後はイ・ランさんが大変なことに見舞われます。イ・ランさんの手紙を読んでいて赤の他人の私が絶句するぐらいに、その内容は壮絶と言っていいでしょう。手紙を受けていがらしさんが書いたのは「楽になれる時はきっと来ますよ」という言葉でした。いがらしさんも根拠なき楽観主義に則ってその言葉を投げたのではなく、じっくりと受け止め考えた結果、イ・ランさんに伝えたかったのがその言葉なのだろうということは、読者なら瞭然かと思います。ふたりは率直にそれまで手紙を交わしてきました。いがらしさんの言葉に、私も胸を打たれました。生きていればなんとかなる、とは『もののけ姫』に登場する台詞ですが、本当にそうだと思う。もちろん今より悪くなることもあるかもしれないけれど、良くなることもある。その可能性を捨てては駄目なのだと、私は思います。

 みっつめは、イ・ランさんの着眼点です。もちろん、人は誰しも同じではないのですが、イ・ランさんの個性は私の中にあまりないものだったので読んでいてただただ面白かった。エッセイなどを読む楽しみはそういうところにあります。

 手紙っていいですね。手紙だと書けることも限られるし、即時的なコミュニケーションもできないじれったさがあるけれど、何度も読み返せたり、思わぬ発見があったり、手紙ならではの良さがあります。そういう関係性は羨ましいです。