8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

武田砂鉄『マチズモを削り取れ』感想

 武田砂鉄『マチズモを削り取れ』を読みました。

マチズモを削り取れ

 まずタイトルがいいよね。「削り取れ」という言葉には、「こびりついている」というニュアンスが含まれる。それを削り取らないといけない、と主張する本だ。

 私にはこういうことについて話し合うことのできる人がほぼ皆無なので、他の人がどういうことを考えているのか知りたい。私は性自認が女性であるが、男性はどう思うのだろうか。わからない。

 これは私の考えなのだけど、感情と事実を分けて考えないと進まないだろうと思う。もちろん感情はとても大切で、作中の編集者の檄は尤も、そういう憤りが社会を変えていくと思うのだけども、一方で「戦略」も必要ではないか。私はあんまりそういう怒りを感じない、感じないでやってこれた、と思うので負い目がある。そもそも世界に期待をしていない、というのもある。

 そして、突きつけられた(と思っている)側も、感情と事実を分けて考えてほしい。そして大事なことなのだけど、別に「あなた」を非難しているわけではない、ということ(ただし「あなた」にも関係があることだ)。自分が攻撃された、蔑まれたと思って、拗れるのはお門違いだと思う。そう思うのも宜なるかなと思うけど。建設的に考えていきましょう、という話になる。学んでいきたいし、私も削る為の実践を考えていきたい。

星野青『月光川の魚研究会』感想

 星野青『月光川の魚研究会』を読みました。

月光川の魚研究会

 写真が付けられた小説は無条件に良い、というのは過言であるが、内容抜きで本の体裁としてそういう本が私はとても好きなのである。

 月光川の魚研究会というのは、聞き馴染みない言葉、どうやらバーの店名らしい。バーというのも良い。酒はちっとも好きではないが(嫌いでもないが)それ以外のバーの要素はとても好きだ。バーで本や書き物はしていいものなのだろうか。変な人に絡まれなければ、お酒を一杯飲みながら本を読んだり書き物をするのはとても楽しそうだ。バー、の密やかなそして無関心が保たれた静かな空間に憧れるので、この本は読んでいて楽しかったと思う。

稲田俊輔『おいしいものでできている』感想

 稲田俊輔『おいしいものでできている』を読みました。

おいしいもので できている

 真っ青な表紙。食べものに関するエッセイなのに、一般的に食欲を減退すると言われている色を使うのが、まずは面白いなと思った。そして内容も面白かった。極端に何かを好きな人の過剰な語りを摂取することで得られる成分、みたいなものがあるはずだ。筆者は高校生時代にホワイトアスパラガスを小遣いで買っていたらしいのだが、これだけで面白いのがいい。そんなテイストのエッセイが何本も収録されていた。エリックサウスのカレーはいつか食べる。

坂本龍一『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』感想

 坂本龍一『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』を読みました。

ぼくはあと何回、満月を見るだろう

 書き手の坂本龍一という人の気配が濃かった。そして、坂本龍一は、もうこの世にはいない。

 死に対する考察よりも、自分の生についてひたむきなテキストだったと思う。それは同じことを言っているようで、多分心持が大きく違うだろう。いかにして生きるか、死ぬ間際まで氏にはやること、やりたいことがあった。

 

武田砂鉄『わかりやすさの罪』感想

 武田砂鉄『わかりやすさの罪』を読みました。

わかりやすさの罪

 「わかりにくい」を断罪しない余裕と深みを持つ、ということを考える。他人の間違いを自分を優位に立たせるための手段にしない、ということは以前から考えていることだが、わかりやすさを所望してしまう心には、間違いは悪だという考えがあるようにも思う。迷うこと、揺らぐこと、そこに堪えられるだけの胆力を持つためには何ができるのか。

 

 

小林聡美『聡乃学習』感想

 小林聡美『聡乃学習』を読みました。

聡乃学習 (幻冬舎文庫)

 エッセイを立て続けに読んでいると、当たり前ながら文体がそれぞれ異なることが不思議でならない。同じであることがあり得ないのにもかかわらず、これほどまでに文体が違うことに違和感を感じてしまう。その文体、どこから。

 小林聡美さんのエッセイを読みました。エッセイはその人の着眼点を浮き彫りにするものなので、自分のものと違う視点に驚くばかり。また、自分より年上の方のエッセイを読むと気が引き締まります。それは遅かれ早かれ私も経験する未来の話であり、人は自分が当たり前だと思っていることはあんまり書かないものです。小林さんは自分の発見や驚き、疑問を、自分の状態を交えながら書いているので、「ほほう、そういうことがあるのだなあ」と勉強(という表現は適切では無いかもしれないけれど)になるのでした。

又吉直樹『東京百景』感想

 又吉直樹の『東京百景』を読みました。

東京百景 (角川文庫)

 単行本で読んだのだけど、装丁がめちゃめちゃ好きだと思った。あのぐらいのサイズの収まりの良さは、所有欲を掻き立てるものがある。デザインも素敵。

 又吉さんの書くものを初めて読んだ。面白かった。色々考えている人なのだなと思った。この人に比べて、自分は想像力が豊かではないと思った。自分の思考パターンとして、あまりIfは考えないのかもしれない。一方又吉さんのエッセイには「もしも」がよく登場する気がして、世界がダブっているような感覚を覚えた。