8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

森博嗣『人形式モナリザ』感想

 森博嗣さんの『人形式モナリザ』を読みました。

 

人形式モナリザ Shape of Things Human (講談社文庫)

人形式モナリザ Shape of Things Human (講談社文庫)

 

 

 久々に瀬在丸さんたちの物語、通称「Vシリーズ」を読みたくなってしまった。

 森博嗣作品の特徴は色々あるのだけれど、人間の不合理や不安定なところを分けてえがくところが気に入っている。簡単に言ってしまうと感情過多で海に溺れそうなときに読むと心地が良い。逆にとことん人間を読みたい気分の時はあまり手に取らないかもしれない。

 瀬在丸さん、危ういなと思う。多面的、異なる人格を内に秘めているのに一人の人間として統合されている、的な記述がどこかにあったような気がするが、さてどこで…(瀬在丸さんは他のシリーズにも顔を見せているお方なので)。

 事の真相は指摘されれば「ああそうか」というものだけれど、明かされるまで気がつくことができませんでした。してやられた。人形を通して人間を考える。興味深い話だったと思います。私は事件のトリックが結構好きです。人形だったものが実は人間を操っていた、というところ。

 そして例のごとく登場人物たちの会話が面白い。内容と応対のテンポが素晴らしい。それだけで読む価値があるというものです。10作あるうち、2作読破です。残り8作、読んでいきたいと思います。

彩瀬まる『珠玉』感想

 彩瀬まるさんの『珠玉』を読みました。

 

珠玉

珠玉

 

  

 絶世の美女でありスキャンダラスな悪女とも名を広めていた歌手である真砂理津(リズ)を祖母に持つ歩の物語。ほとんどが「リズ」と表記されていたけれど、真砂理津の「理津」という名前、いいなぁ…と思いました。好みの名前です。

 珠玉とは何なのか。珠玉たる才を持っていること?才を持っていても磨かなければ美しく輝くことはできない。磨くためには自分に何があるのかを弁えること、そして、自分が何をしたいのか、望みは何なのか知っておくこと、歩が奮闘する様子からそんなことを考えていました。歩の作る服、見てみたいし着てみたいです。

最果タヒ『もぐ∞』(もぐのむげんだいじょう)感想

 最果タヒさんの『もぐ∞』(もぐのむげんだいじょう)を読みました(再読)。

 

もぐ∞(もぐのむげんだいじょう)

もぐ∞(もぐのむげんだいじょう)

 

 

 カラッカラに心が干からびた末に辿り着いた週末に、ここに行けば何か潤いがあるんじゃね?(行ったことがなかったけど)と思い立ち、ふらふらしながら訪れた青山ブックセンターで、私はこの本を買いました。当時のレシートをしおり代わりに使っていたようで、ページの間に挟まれていたものを見ながらこれを書いています。レシートをしおり代わりにするの、なんかいいな。普段しおりを使わない人間なもので。え?どうやって読んだページを把握するの?って。そんなのなんとなく覚えてるでしょ。というかページを忘れることより大好きなしおりを失くしたりうっかり図書館本に挟んだまま返却することのショックの方が大きいから、読書家らしい私にしおりをプレゼントしてくれたところで使わないんですよね…でも嬉しいからこれからもしおりをプレゼントしてください(使わないけど)。

 本編の感想に移ります。

 食べることが好きなので読んでいて楽しかったです。迸る言葉たちが頭の中に留まらないで流れていってしまう感覚。最果さんだからこその感覚なのかどうなのか。パフェはあらゆるスイーツを内包する存在であり、レベルが一段階異なる、ってのが面白かったです。この本を読んで、食べ物をめぐるエッセイを書きたくなった私でした。

江國香織『冷静と情熱のあいだ Rosso』感想

 江國香織冷静と情熱のあいだ Rosso』を読みました。

 

冷静と情熱のあいだ Rosso (角川文庫)

冷静と情熱のあいだ Rosso (角川文庫)

 

 

 何故、マーヴじゃないのよおおおおおおお!!!とか、アオイは良い暮らししているなぁ…とか、そういう感想もあるにはあるのだけど、この本の一番好きなところは「静寂」なのであった。タイトルそのまんま。冷静と情熱のあいだで揺れ動く人間の心情を見事にえがいている作品だと思うけれど、生活に対するアオイのまなざしが私は好きなのだと思う。こんな風に静かに生きたい、と思ってしまう。アオイのような暮らしぶりをしたいというよりは(土台無理な話なので)、静寂だけ、欲しい。

江國香織『きらきらひかる』感想

 江國香織さんの『きらきらひかる』を読みました。

 

きらきらひかる (新潮文庫)

きらきらひかる (新潮文庫)

 

 

 確か1991年刊行。そこから28年経った現代日本社会はまだ同性婚は法的には認められていません。んんん?そうするとまた話はややこしくなる。もうこの本の舞台が2019年だったら?笑子と睦月は結ばれたのだろうか。二人の愛は成立したのだろうか。・・・。なんというか愚かな疑問なのかもしれない。

 様々な愛の形があっていいはずだ。主に外的圧力によって自分たちの愛の形について悩んでいるすべての人たちに贈る物語、という感想を抱いた。本人たちのことは、本人たちにしかわからないことがあるものね。にしても笑子と睦月と紺を取り巻く人たちのわかってくれなさ、がつらい。全然わかっていない。認めていない。自分たちの理想をただ押し付けているだけの姿が悲しかったです。自分も他人に対してそんな振舞をしていないといいな、これからはもっと自覚的にあらねば!と思いました。破天荒というか、笑子の笑子らしさ、危なっかしいからこそ目が離せなかったし、アル中ではあるのだけど、お酒の描写読んでいてすごく好きだった。

恩田陸『タマゴマジック』感想

 恩田陸さんの『タマゴマジック』を読みました。

 

タマゴマジック

タマゴマジック

 

 

 図書館の本棚、恩田陸さんのところにいつもあって、私がまだ読んでいない本(恩田陸作品まだまだ未読のものもあるけれど、結構読んできた方だと思う)。手を伸ばしてぱらぱらめくっては棚に戻して、を繰り返したある日の図書館、ようやく私はこの本を借りることができました。躊躇していたのは気分的なものだったのと、外見からこの本はどういうものなのか予想がつかなかったからでもありました。エッセイ?小説?結果的にはどちらも正しかった。小説もありエッセイもある、不思議な一冊です。

 最近『Q&A』も読んだのでビビッときたのですが、

 

dorian91.hateblo.jp

 

噂が噂を呼び本来のキャパを大きく上回る熱狂を身にまとってしまうあの手の付けられなさ、恐怖、みたいなのがじりじりとえがかれていたと思います。恩田作品の怖さって、この「手が付けられない感じ」なんですよね…怖い。イメージは、NHKのドラマ『六番目の小夜子』の文化祭のあのスピード感です。怖。

 怖いのは主に「ブリキの卵」でして、関根親子が登場する「魔術師」や恩田さんのエッセイ「この世は少し不思議」はそれぞれ独立しているのに一つの物語のピースみたいになっている構成が見事だなと思いました。この本は構成が、すごいです。

 タマゴマジック、恩田陸の『ネクロポリス』にあやかって、かきたま汁が飲みたくなってしまいました。卵、タマゴからは何が生まれるのやら。

伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』感想

 伊坂幸太郎さんの『火星に住むつもりかい?』を読みました。

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

火星に住むつもりかい? (光文社文庫)

 

 

 この物語の世界は果たして「他人事」だろうか?
 私はそうは思わない。ここでえがかれている人間らしさは多分本当だ。小説というのは人間のことを書くものだと思うし。ここでえがかれている人間が本当なのであれば、小説の世界で起こったことも非現実的とは言えないと思う。そうさせる人間の性は、現代で生きる我々にも備わっている。
 ということで、特に前半は気持ちが悪くなりながらなんとか読むこととなった。そのあたりの描写はぱっきりえがかれているような気がします。が、読み進めていくと段々と真壁さんと秘密警察の下っ端による探偵小説みたいな様相になってきた。このあたりからはだいぶ楽に読めるので、前半で心折れそうになった人はもう少し頑張ってみるか、それでも駄目なら無理しなくていい気がします。
 面白かったのは、真壁組は「平和警察」であって、読者から見れば権威を振り回し住民の不安や暴力的な感情を利用して権威にたてつく輩を面白おかしく虐げる最悪の組織、でしかなく(私は少なくともそう思った)「正義」なぞ彼らにはないと思っているのに、彼らの物語を読まざるを得ず、会話のテンポなんかが面白いんだよなぁ…という「悪いやつなのにだんだん憎めなくなってくる」な状態になるのが腹立たしい(良い意味でですよ)。真壁たちが追っているのが読者からすれば「ヒーロー」なのに、読者は悪役の目線で物語を読まざるを得ない。この倒置みたいなものが良いなぁと思いました。
「火星に住むつもりかい?」の言葉がひょっと文中に登場した際は痺れました。そう、私たちは火星に住むことは今のところできない。なおかつ私が人間である限り火星でも同様のことが起きてしまう可能性は否定できない。火星に住めない。住んだところでどうしようもない。では、どうする?というお話です。

 話は落ち着くところで落ち着くけれど、それは希望ある終わり方かもしれないけれど、平和警察の拷問などで追い詰められ亡くなった市民は、生き返ることはないのだよなぁ…と思ったのも書いておきます。小説の中のことかもしれないけれど、それでも。