8月2日の書庫

本の感想を書くブログです。

本多孝好『ストレイヤーズ・クロニクル』感想

本多孝好 さんの『ストレイヤーズ・クロニクル』を読みました。

ストレイヤーズ・クロニクル ACT-1 (集英社文庫)

 全3巻からなる小説。異能力バトルものとして好きということもありますが、それだけではない。政略、陰謀、家族、機転、生存、過酷な運命を背負う青年たちの悲しく美しい物語でもあります。実は読むのがこれが初めてではありませんが、やっぱり好きだ。私はこの物語が大好きなのだ、と思いました。

 

ロマンスがありあまる

『ストレイヤーズ・クロニクル』は実写映画化された作品でもありますが、実はこちらは見ていません。レンタルで見ようかなと思っていたら、最寄りのショップには存在しなかったもので。しかし、実写映画に絡めてこの曲は今でも好きな曲です。

youtu.be

 

読書の感想ブログですが音楽も好きです。特にCメロの部分が好きで、あのパートだけでご飯10杯くらいおかわりしたい。それぐらい、好き。映画は見ていないけれど、真っ黒な背景に真っ白な文字のスタッフクレジットが下から上に流れる、そしてこのパートが流れる。完璧。結構誰とも構わず話しているけれど、全然理解してもらえない。

物語の内容や感想と、この曲はよく合っていると思うので、コーヒーとドーナツみたいな良い関係だと思います。

 

陶酔の不在

ライトノベルとこの物語の違いを考えていました。そこまでたくさん読んだわけでもないのでライトノベルとはなんたるものなのか、それを正確に把握できているかはわかりません。しかし、同じ「異能の力」を題材に描かれる物語という点で比較してみると、ライトノベルと『ストレイヤーズ・クロニクル』は少し違うような気がします。それは何か。「陶酔の不在」です。

『ストレイヤーズ・クロニクル』の登場人物たちは、それぞれ異能の力を持っています。実際どのような力かは読んでいただきたいところですが、便利なものもあれば厄介なものもあります。人間として生きていけないような力もあります。便利でも便利でなくても、登場人物たちは自分の能力に酔いません。自分にも酔いません。驚くほど冷静で、驕ることも無ければ自身を過小評価することもあまりない。そこが、とても興味深いところです。

大体の異能力バトルのあるある展開は「ひゃっはーーーーーーーー」と異様にテンションが高いキャラが登場して、ぶいぶい力を振って、主人公に圧倒的に負ける、という「咬ませ犬」的な存在がいるのですが、『ストレイヤーズ・クロニクル』には少なくとも異能を持つ人たちの中にはハイテンションキャラは誰一人いません。面白いですね。それはこの物語がいかに彼らにとって切実な問題を抱えているか、ということに他なりません。

異能の力を持つ2つの集団、1つは主人公側、もう1つの「アゲハ」と呼ばれる殺戮集団。どちらもある目的がありそのために懸命に生きている。そう、切実な物語なのです。遊びじゃない。自己実現の物語でもない。だから咬ませ犬も生まれない。(ライトノベルが遊びとは思わないけれど、そこは「ライト」なんですよね。そういう物語も楽しいです)

 

自己を呪わない

この小説の好きなところがあと1つ言いたい。それは、この物語の主人公たちは「自分を呪わない」ということ。呪う理由がないけれど、内省的で「自分がもしこんな人物だったら」というような迷いを起こさない。自分は自分、他者は他者。自分のこと以上に守りたい存在がいてその人たちのために生きたい。そんな強い愛を感じられるのがとても好きです。

本当に過酷な運命を背負わされ、人類を呪うのも仕方がないけれど、彼らは懸命に生きている。そこが私は美しい小説だなと思います。すごく、悲しいのですが。全員がハッピーに寿命を全うできる未来はありえなかったのか。戦うしかなかったのか。とりあえず「渡瀬」(という登場人物がいます)は最悪だな、と思いながら、この感想を終わりにしましょう。

 

好きな作品です。クールだと思います。

本多孝好 さんの『ストレイヤーズ・クロニクル』を読み終わりました。