8月2日の書庫

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恩田陸『蒲公英草紙 常野物語』感想

 恩田陸『蒲公英草紙 常野物語』を読みました。

蒲公英草紙 常野物語 (集英社文庫)

 

 恩田陸の作品はかなり読んできたと自負しているけれど、この期に及んでまだ読んでいない作品があることを嬉しく思う。今回は常野物語シリーズより『蒲公英草紙 常野物語』を。

 恩田作品を読んでて思うけれど、本当にたくさんの聡明な人間が登場するなあと思う。これはもう「恩田カラー」だと言っていいだろう。著作全体を通して綺麗な話が多い。だから私は恩田作品を好んで読むのだろうという自己分析である(その自己分析は同時に私にとって恥ずかしいものであるが、まあ、言わなくてもばれるだろうからいいや)。恩田作品特有のクリーンさをわかっている人がいたとして、それを忌避する人がいるならそれはどういう人だろう、とふと考える。ちょっとお話してみたい。

 常野一族のような穏やかで謙虚で慎ましく生きる人が表の世界を動かすわけではないというところが、残酷だけれど本当らしいと思った。ウクライナ侵攻も起きているわけだし。同じく常野物語シリーズの『エンド・ゲーム』を思いだした。あの作品に通底しているのは、勝ち目のない戦いに対する圧倒的絶望感であった。そう、常野物語は「敗者」の物語なのかもしれない。敗者には敗者なりの生き方があり、矜持があり、幸せがある。たぶんそういうことなのだろう。

 そもそもゲーム設定は常野一族が主導したものではなく、常野一族以外の人々が勝手に作ったゲームというだけのことであり、ゲーム盤というのは、ルールを守らなければただの盤であるような気もする。つまり何が言いたいのかというと、とりあえず死なないように生き延びて、ゲーム盤が諦めてくれたり壊れたりするのを待つことなのかもしれない。そんなことを考えていた。ゆったり読めるけど、ゆったりの中にピリリとしたスパイスが効いている、気がする。