8月2日の書庫

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岸政彦『図書室』感想

 岸政彦さんの『図書室』を読みました。

図書室

 

 まずご自身で撮られたという表紙の河川敷の写真(川面は少し波立っている)と直筆のタイトルと著者名がいいんだわ…。『図書室』なのに河川敷?と思ったけれど、なるほど、これは確かにこの表紙でなければならなかったです。

 『図書室』という小説と、『給水塔』という書下ろしのエッセイ?なのか小説なのか、が収録されています。これは西の文学なんですね。関西弁ってやっぱりいいなぁと思います。これが仮に翻訳されたとき、例えば英語なら関西弁はどのように表現されるのでしょう?そういうことを考えると、いわゆる方言(標準語というものがあったとしても、方言であることに変わりはない?)が文体としてどのように表現されるのかという点は、とても興味深いことです。

 図書室。これが図書館でもなければ、学校の図書室でもない。家と学校とそれ以外。「第三の場所」というところがいいなと思いました。図書館だと人が多すぎる。学校の図書室は学校という閉じられた世界に巻き込まれている場所だからイマイチ。公民館の図書室の「ちょうどよさ」は一体なんなのでしょう。

 読みながら、図書室というのは主人公たちにとっての世界であり、同時にさらに外に広がる世界の交点だったかなと思いました。公民館のひっそりと人気がない図書室のさらに奥にある子ども用コーナーの一点から、世界の終わり、終末へと拡張していく感覚が面白かったです。見えていないからこそ、わからないことがあるからこそ、そこまで拡張できてしまうのかもしれないです。小学生の目に映る限られた世界という点でも、この小説は見事に限定的で独りよがりなところが描かれていたと思います。